迷宮の螺旋

silver bread

第1話 神家乃亜

賑わう街の喧騒から隔絶された、人里離れた山奥。そこには、時代に取り残されたように古びた一軒の駄菓子屋が佇んでいる。


駄菓子屋と言えば、子供たちが小銭を握りしめ、目を輝かせながら安価な菓子を選ぶ、明るい記憶の象徴のはずだ。しかし、この店が立地するのは、あまりにも場所が悪すぎた。


周囲は深い木々に囲まれ、昼なお薄暗い。子供たちが気軽に通うには、あまりにも人気がなく、危うさに満ちている。その店はまるで、この世の光景から自らを避けるかのように、ひっそりと息を潜めている。


地元では、まことしやかに囁かれる噂があった。


「あれは、ただの駄菓子屋じゃない。呪物の館だ」

文字通り、この世ならざる力を宿した品――呪物を扱っているという。それを心から欲した客には、店主が譲ってくれる。ただし、呪物を手にするための条件があるらしいが、その条件が何であるかを知る者はいない。


普段、店の番をしているのは、目尻に深い皺を刻んだ老いた老婆だ。だが、呪物を求めて店を訪れた者には、老婆に代わって、この世のものとは思えないほど妖艶な美女が迎えてくれるという。


そして、最も恐ろしい噂は、呪物を扱いに失敗した場合のこと。


その代償は、金銭などではない。魂を持っていかれる。それは、すなわち――死を意味していた。

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