第四十九話 リカの告白

 四人が乗った車は、夕暮れの晴海はるみ埠頭ふとうへと入っていく。リカの話は続いていた。

「あたしは日陰ひかげ先生から頼まれて、時限爆弾の装置を預かった。『金銀学習塾』の講師の口も世話してもらった。だけど、先生はその見返りにあたしに恋人になるよう言ってきた。あたしは日陰先生も大学の教授たちも同じだと絶望したよ」

「あいつ、そんなこと言ったのか」

 ほまれの声には怒りがこもっていた。

「親父にリカのことを話したら『キャバレーの仕事をしているような女は銀行員の妻にふさわしくない』と言ったんだ。僕がいくら話しても分かってくれない。僕は先生が時限爆弾の計画を止めたことをリカから聞き、だったら僕が親父の銀行に時限爆弾を仕掛けようと思ったんだ。予告テープを送り、うまくいけば爆弾を止めるための身代金をせしめられる。そして僕たちを見捨てた大学や親に分からせてやろうと決めたんだ」

 リカが話を継いだ。

「キャバレーであたしのお得意さんだった牧野まきのさんが、高速道路のトンネル工事をしていると言ってたんで、その情報を誉に流したの」

 真優美には兄の行動に心当たりがあった。

「もしかして、兄さんが清史きよしさんのアパートに行ってたのはそのためだったの」

「ああ。僕は清史に協力してもらって、親父さんの倉庫の鍵を複製してもらい、ダイナマイトを手に入れた。こいつの火薬とリカの時限装置を繋げるんだ」

 誉は手に持っていた紙袋を持ち上げた。

「ダイナマイトの残りは僕しか知らない場所に隠してある。時限爆弾の作り方をマスターすれば、日陰先生に頼らなくても活動ができるからな」


              ○


 話し終えた誉に一希は尋ねた。

「真優美は『兄さんは味方だ』とずっと言ってた。あんたは妹を見捨てるのか」

 一希の声には怒りがこもっているように真優美には感じられた。誉は一希に顔を向ける。

「見捨てるわけじゃない。妹は大切だし、力になりたいとずっと思っている。だけど真優美は将来も決まっているし、親友もいる。リカにはおばあさんがいたけど、病気で亡くなった。今のリカには僕しかいないんだ」

 ずっとハンドルを握っていたリカが口を開いた。

「誉の気持ちは嬉しいし、いつかは結婚できればと思っていた。でも、誉とあたしは出会っちゃいけなかったんだ」

 リカは車を倉庫の建ち並ぶエリアで止めた。

「おばあさんが亡くなる前に、母さんがあたしにあてて書いた遺書を渡されたの。その手紙には、あたしがお腹にいるのを知りながら母さんを捨て、別の女と結婚した男、つまりあたしの父親のことが書いてあった」

 真優美は息を飲んだ。

「母さんは高卒で墨桜ぼくおう信用金庫に入って、同僚の男性とつきあっていた。だけどそいつは『得意先の家の娘と結婚する』と言い、母さんを捨てたんだ。そいつの名前は『さか豊雄とよお』。今では両国支店長になってるんだってね」

 車内を沈黙が支配した。

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