高校の雪属性のお姫様が、こっそり俺にだけケーキを振る舞ってくれる

汐海有真(白木犀)

第1話 「雪姫」との秘密の約束

 放課後。スクールバッグを肩から下げて、礼月あやつき高校の一階の廊下を歩く。すれ違う生徒たちの襟元で、一つ下の学年の高校一年生であると示す空色のネクタイやリボンが揺れていた。


「おい、見ろよ、雪姫だぞ……!」

「うわー、めっちゃ可愛い……告白したら付き合えたりすんのかな?」

「いや、お前じゃ無理だろー」

「おいっ」


 仲睦まじげに会話している二人の男子生徒の横を通り過ぎる。彼らの視線の先には、向こうの方から歩いてくる美しい女子生徒の姿があった。


 ――白花しらはな琴莉ことり、高校一年生。


 清楚な白色のリボンでハーフアップに纏められた、薄茶色の長髪。瞳は窓の向こうに広がる空のように澄んだ青色。余り変わらない表情や、華奢な身体と白磁のように綺麗な肌も相まって、どこか儚げな印象を受ける彼女についた通り名は「礼月の雪姫」。まだ五月だというのに、学内で彼女のことを知らない者はいないであろうという人気ぶりだった。


 白花との距離が近付いてくる。一瞬だけ目が合って、すぐに離れた。彼女とすれ違う瞬間、どこか洋菓子のような甘い香りがした。


 角を曲がると、昇降口に辿り着く。柚原ゆずはらという苗字のため出席番号がクラスで最後であり、最下段の左端を割り当てられているため正直靴が取り出しにくい。いつものように屈んで二年一組の靴箱から自分のスニーカーに手を伸ばすと、隣に小さな白いメモが添えられていることに気が付いた。俺はスニーカーではなく折り畳まれたメモを取り出して、そっと開く。


 ――今日、よければ食べに来てください。


 名前はなかったけれど、誰が書いてくれたものかははっきりとわかった。俺は少し口角を上げて、メモを制服のポケットに仕舞って今度こそスニーカーを取り出すと、へと向かうことにした。




 礼月高校から歩いて二十分ほどのところにある十二階建てのマンションの入り口。

 それが、約束の場所だった。

 スマホでゲームをして待っていると、「――ゆず先輩」と、透き通った優しい声が聞こえる。


 顔を上げると、そこには白花が立っていた。

 彼女は俺と目が合うと、花が開くときのように可憐に、ふわりと微笑う。


「すみません。待たせちゃいましたか?」

「いや、全然待ってないよ。ゲームしてたし」


 俺がスマホの画面を見せると、白花はふむふむと頷きながら「そのゲーム大好きですよね、ゆず先輩……」と興味深そうに頷いた。


「うん。パフェとパフェをくっつけてプリンアラモードを作れたときの喜びといったらないからね」

「一時期流行ってましたけど、今もそんなに熱心にやってるのってゆず先輩くらいなんじゃないですか?」

「え、マジ!? 俺だけ!?」

「マジマジ。ゆず先輩だけです」


 白花はおかしそうに笑う。その表情に、どきりとした。高校にいるときはどんなときも表情を殆ど変えないと評判なのに、俺といるときはころころと表情を変えてくれる。信頼してくれているのだろうか――そう考えながら、「そっか、俺だけか……」と返答した。


「ところで。ゆず先輩」


 白花は背中の後ろで手を組みながら、俺のことを上目遣いで見る。


「ゲームで作れるプリンアラモードと、わたしが作ったケーキ。どっちが好きですか?」


 試すような語調で尋ねてくる白花に、俺はすぐに返答した。


「それは勿論、白花が作ってくれたケーキだよ」

「おおっ、即答。これは嬉しいですね」


 白花はそう言いながら、スクールバッグから銀色の鍵を取り出す。鞄に付けられているチョコレートケーキのキーホルダーが、そっと揺れた。

 マンションの自動ドアの方に歩いていきながら、白花はくるりと振り向く。



「――それじゃ、ゆず先輩。今日もわたしのケーキ、食べてくださいね?」



 真っ青の目を柔らかく細めながら、白花は告げる。

 俺が「勿論。ありがとう」と返すと、白花は満足げに微笑んだ。

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