STING
狂気太郎
第一話 師との問答
第一話
コダンの師は凄い人だ。二百数十年前、このビギナーズ・ウェルカム大陸が出来た当時からいて、一級ハンターとして活躍していたらしい。大陸最強の男という噂だ。
そして、とても恐い人だ。敵対した者を必ず殺す。何百人だろうが何万人だろうが皆殺しにする。これまで幾つもの国が滅ぼされ、コダンが生まれる前に起きた『血塗られた女帝』戦争では師一人のせいで百万人以上が死んだとか。まあこれは師が全員を殺した訳ではないようだが。また、その戦争で師は死んだけど戻ってきたという話だ。
ちなみにその女帝と同じエレンヒルドという名の女が師の屋敷に住んでいる。コダンを含めた弟子達の食事を作ってくれる。若くてとても美人に見えるが何年経っても若いままなので実際の年齢は分からない。師と正式に結婚している訳ではないらしいのだが、彼女は幸せそうにしている。師はいつも無表情なのでどう思っているかは分からない。
コダンが弟子入りして一年くらい経った頃だと思う。道場の他の弟子達と自分を比べて思い悩み、師に相談したことがある。
「師よ。俺は戦う才能がないみたいです。動きは遅いし、相手の動きもよく見えないし、力も強くありません。剣を正確に振るのも苦手です。殺気にも気づかず、考えるのも遅いです。こんな俺は、どうやって強くなればいいんでしょうか」
実際にはこんなにうまく喋れなかったような気もするが、とにかく、それっぽいことを言った。
「今劣っていることは全く問題にはならない」
師は無表情に告げた。
「逆に劣等感が原動力になることは多い。お前が望んで修行を続けるなら、動きは速く正確になり、感覚も鋭敏になり刹那の判断も出来るようになるだろう。だが……」
コダンの中で燻っているものを察してくれたらしく、師は続けた。
「もしお前が、動きが遅く不正確で、感覚も思考も鈍いままに強くなりたいと望むのであれば、別の道もある」
その時師と同居しているカ・ドゥーラの「つまり魔術じゃな」という声が聞こえたのだが、師が無視していたのでコダンも無視して尋ねた。
「それはどういう道でしょうか」
「まず、身を守る手段として相当な耐久力と回復力が必須になるだろう。お前は苦痛への耐性が高く、幼少時に体の一部を再生した経験がある。その能力を伸ばすがいい。何度致命傷を受けても耐えられるように」
師の提案はコダンにしっくりくるように思えた。
「分かりました。それで、攻撃については、どうすればいいのでしょうか」
「毒か呪い。或いはその両方だ」
師は答え、それでコダンの道は決まった。
(第一話 完)
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