閑話 サンド編・前編
-これは遡ること、18年も話である-
オレはサンド・バイス。
この国はとても貧しい。
名前も知らないこの国で生を受けたオレはいま12年目。つまり12歳だ。
家族構成は本来ならオレを入れて4人。しかし父親は戦争で死んでいるらしい…。なので母親、そして4つ下の8歳の妹…名前はクレリア。
3人で仲良く、そして慎ましく生活している。
母親は近所にある紡績市場で働いているが、身体が強くなく仕事は休みがちだ。
当然、給金は少ない。
今は薄々しか気付いていなかったが…そんな中に2人も子供の食事を用意しなければならない。
それは尋常とは言えない苦労があっただろう。
かといって子供には何も出来ないと思っていた時であった。
この国は資源が貧しく、貧富の差がとても激しいとオレのような子供でも聞いている。
オレは貧困街と言われる区域で生活している。王都には壁があり、壁の内部の人は食うに困らないとか聞くがオレには想像すら出来ない世界だ。本当にそんな世界があるのかも疑わしい。
まあ、壁は高く飛び越えられるものではなく門を守る衛兵も強靭なため、どうやっても中に入って確認する術はないから今は気になりもしない。
オレが12歳の時に母親は飢饉で亡くなった。
飢饉はこの国でオレの母親を含め…多数の死者を出すこととなった。オレと妹…クレリアは幸いにも何とか生命を繋いで生き延びる事が出来た。
元から身体も強く、辛抱強さにも自信があったオレは空腹が辛いとも言えど何とかなった。しかし母親同様、身体が強くない妹クレリアは栄養不足がたたり、基本は寝たきりの生活である。
これからオレは妹、クレリアの分の生活費と食事代も稼がねばならない。
母親の死の間際…「サンド…。すまないね…。クレリアを…頼んだよ…サンドにしか…」
女手一人でオレたち2人を育てたが、最後まで紡がれなかった心残りの感じる…その言葉がずっと頭から離れない。
「お兄ちゃん…クレリアのこと、置いていって良いから…」
母親が死んだその日、クレリアは生気のない青い顔で床から這い出でる事もできないほど、連日の飢饉と食料不足で衰弱しきっていた。
その小さな声ながら…既に死を覚悟した意志を感じた。
「お兄ちゃんが絶対にパンを用意してくる!だから、頑張るんだぞクレリア!」
母親が死んで埋葬を終えた次の日、クレリアにそう伝え…朝一番。オレは近所の山に走った。この国は資源が貧しいが唯一豊富に採れる物がある。
それは鉱物だ。
どんな物かはよく分からないが、母親が言うには木や布より頑丈なモノらしい。王都の壁くらいの硬さらしい。信じられないと思った。
16歳…大人になると鉱山で働いて金を沢山貰える。という話は貧民街で有名だった。
実際に鉱山で働いている男たちは食うに困っておらず…オレの親が飲むことが出来なかった高い酒を飲んでいるのも稀に見かける。
オレは16歳になっていないが見た目だけなら同じ位に見えて体格も遜色がない。1度試しに働かせてくれないかダメ元で相談に行ってみようじゃあないか。
♢
結果的に言うと鉱山で働くという目的は達成した。
妹の生活のために働きたい。体力と力だけなら負けない。とアピール。
すると…年齢なども口頭確認程度で済み、拍子抜けだった。
ちょうど大規模な増員を検討しているとの事で、その日から参加することが出来た。
なんでも戦争の準備。と言っていたので…その時は父親がオレ達の元から居なくなった遠因の言葉に少し反応したことを覚えている。
鉱山では朝から夜まで働いた。朝から何も飲まず食わずの作業だった。常に空腹で喉もカラカラだった。
鉱山内は汗が噴き出すほど蒸し暑い。力に自信はあったものの…この正体不明の岩の塊は重たい。
だが…生きるため。クレリアのため。こんな石っころに負けて挫けるわけにはいかない!
オレは、クレリアと共に生きるんだ!
♢
日も落ち、真っ暗になり初仕事を終えた。
日当である銅貨3枚を手渡される。
コレで水とパンを買ってクレリアに食べさせてあげられる!早く。早く。一刻も早く帰らねば!
閉まる前のパン屋に、飛び込むように駆け込む。
最も値段の安い黒パンと水をすぐに買った。
あまりの形相と格好にパン屋の女中さんに驚いた顔をされた…が、それどころではない。
オレは鉱山仕事で身体中の水分という水分が無いくらいの状況で倒れそうだった。
頭がずっとクラクラしていたが…全速力で家に帰った。
「クレリア!パンを持ってきたぞ!クレリア!」
掠れた声でクレリアを呼ぶ。
真っ暗な暗闇の中、床に敷いた寝袋が僅かに動くのが見えた。
「クレリア!大丈夫か!?今、お兄ちゃんが水を飲ませてやるからな!」
僅かに動きはするものの声も出せないように見える。
クレリアに少しずつ水を飲ませる…。
そして。硬い黒パンを水でふやかしながら…少しずつクレリアに黒パンを食べさせる。
しばらくマトモに食事を出来なかったクレリアの顔に生気が戻った気がした。
「おにい…ちゃん…おい…しい…あり…がとう…」
小さな声がやっと聞こえ、クレリアの目から僅かに涙が零れる。
初めて自分の力で大事な妹を守れた。
母親が居なくなった中…生きるための手段を手にした。2つの想いで胸が熱くなった。
「ごめんなクレリア…辛かったよな…オレがこれから守る…明日もパン持ってくるからな…!!絶対に…絶対に!!」
幼い妹にパンを食べさせ再び寝付いたのを確認し、横になった途端に…オレはその日、極度の疲労と緊張から開放された。
その瞬間、即座に意識を失い寝床に倒れてしまった。
♢
薄ら寒い空気。そして耳元から聞こえる妹の小さな寝息でオレは僅かに目を覚ます。
どうやらクレリアに水を飲ませ、パンを食べさせた後にオレは昏倒していたようだ。
外の明かりの具合、そして肌寒さを合わせて考えると今は夜明け。
泥のようにぐっすり寝ていたようだ。
昨日、鉱山の初めての過酷な肉体労働で全身の筋肉という筋肉が痛みを訴えている。
ただ、聞いたことがある。筋肉は酷使するほどに成長していくものだと。
この痛みを乗り越えた時、またオレは一つ強くなり、その分、クレリアを守れる力が増えるということを。
「おにいちゃん」
身体の調子を確認していたところ、オレの動く音と気配でどうやらクレリアを起こしてしまったようだ。
「クレリア。声が戻ってきたな。よかった。そうだ。まだ水とパンがあるから食べれるか?」
クレリアは小動物のように、可愛くこくりと頷いた。
昨夜と同じように少しづつ、少しづつクレリアの口へ水を運ぶ。
そして時間をかけながらだが、クレリアは黒パンを少しずつ食べていった。
その時間はとても優しい気持ちになれる時間であった。
クレリアの表情は昨日の青白い表情と比べ、僅かに血色が良くなり改善の兆しも見えている。
「おいしいよ。おにいちゃん」
「昨日は寝ているのに眩暈がひどくて、体が石みたいに動かなくなったの。そうしたら次は空腹も感じなくなってきて、そのあとぼんやりしてきて何も考えられなくなってた」
サンドはクレリアの話を聞いて再び肝を冷やす。
なぜならばその症状は餓死の一歩手前の症状と言えるからだ。
貧困街という場所柄、どうしても餓死者は度々出てしまう。
もちろん直前から脱した者もおり、そういった人物から餓死直前の状況などは伝えきいているからだ。
「でも、おにいちゃんが帰ってきて声を掛けてくれたのはしっかり聞こえたよ。ありがとう助けてくれて」
そういってクレリアは身体は動かせないが、小さな手でサンドに手を伸ばす。
サンドは微笑みながらクレリアに語りかけた。
「クレリアはオレが守って、お腹いっぱい美味しいご飯たべさせてやるからな。無理はしちゃダメだぞ」
「うん!わかったおにいちゃん!」
クレリアはまるで花が開くかのように笑っていた。
「さあ、おなかいっぱいになったら少しでも早く身体が良くなるよう眠るんだ。寝れるか?」
「うん、安心したら眠くなってきたよ…おにいちゃん、ありがとう」
クレリアはゆっくり目を閉じて船を漕ぎ出す。
しばし様子を見守った後、残りの水とパンがそれぞれ入った背嚢をクレリアの毛布の中。
他の誰にも見つからないよう。隠すように忍び込ませた。
静かに彼は立ち上がり、再び鉱山に向かっていった。
他でもない。たった一人の家族を守るために。
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【TIPS】
【長さ】1メディル=100ディル。更に大きな単位としてキロメディルがある。
【時間】1セク、1ミニ、1ハワーと後者ほど長い
60セクで1ミニとなり
60ミニで1ハワーとなる。
24ハワーが1日に該当する。
キャラクター紹介
◆名前
サンド・バイス
◆性別
男性
◆年齢
30歳
◆特徴(外見)
ウルフカットでブラウンの髪、非常に大柄で色黒
身長は203ディル
鎧は重装鎧
見るからに陽気な顔で筋骨隆々
肩から腕にかけて、大きくタトゥーが入っている
◆性格
基本的にはガサツ
守るということに対してこだわりを持っており、自分の犠牲を厭わない
ケンカっぱやい性格だがいつもオリビアの一言で静かになる
オリビアには一度も模擬戦で勝てたことがなく、オリビアのことを非常に尊敬し、信頼も置いている。
◆特技
体術
体格のわりに非常に俊敏な動きができる
ロジックはないが戦闘のカンは鋭い
◆趣味
力比べ
腕相撲
筋トレ
陶芸
◆得意武器
大きな片手剣と背丈ほどの大盾を使用している
◆得意魔法
土属性
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