手がかり

「けんさんじゃねーか?

5年くらい前だったかな、飲み回りしてた時に、あいつが“獄門がどうの…”って話してたのを思い出したよ。普段は誰とも話さないようなやつだからさ、珍しいこともあるもんだって思って、妙に記憶に残っててな。」


「そのけんさんって、今どこにいるかわかりますか?」

和政がぐっと身を乗り出す。


男は腕を組み、わざとらしく考え込むふりをした。


「ん〜、教えてもいいんだけどよ……わかるよな? 俺も困ってるんだよ。」


露骨すぎる“察して”アピール。

俺が(マジかよ…)と困惑している横で、和政は迷いなく財布を取り出し、千円札を差し出した。


「すみません。今はこれくらいしかなくて。」


男はニタァ、と口角をゆがませ、千円札をつまむ。


「いや〜悪いねぇ。けんさんなら今ごろ廃品回収で回ってる時間じゃねぇかな。戻ってくるのは……そうだな、夜の6時くらいだと思うぜ。」


「そうなんですね。ありがとうございます。じゃあ6時ごろ、また来ます。」


軽く会釈して、俺たちは河川敷を離れ、聖蹟桜ヶ丘駅まで戻った。

気づけば、いつものように馴染みのファミレスへ足が向いていた。


席につくと、俺はさっそく口を開く。


「さっきはありがとうな。ホームレスの人にお金……。」


「いいって! その方が話早そうだったし。」


「じゃあここは俺が奢るわ。」


「え〜あざま〜す。」


和政はへにゃりとした笑顔を見せる。

本当に、こいつは。


「とりあえず、ここで17時くらいまで時間潰そうか。」


「うん!」


「ドリンクバーいるよな? あとは……俺ミラノドリア。和政は?」


「僕はペペロンチーノにしようかな。」


「おっけー。」


タブレットで注文を済ませ、2人でドリンクバーへ向かう。

グラスに飲み物を注いで席に戻った瞬間、俺の耳に隣のテーブルから女子高生の声が飛び込んできた。

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