消えた父と“獄門”の噂③

「あそこはね、“獄門”って呼ばれていて……

何かの因果で結びついた二つの命の“禊”を行う場所らしいんだ」


「は? こわ……。

え、でも俺たち禊なんてやってないよな?」


「うん。

それはたぶん、僕たちが呼ばれたわけじゃなかったからだと思う」


「じゃあ……誰が呼ばれたんだよ?」


和政は一拍置いて、小さく息を吸った。


「確証はない。

でも——達也くんのお父さんじゃないかと思ってる」


「……は? マジ?」


「うん。

車が猛スピードで走ってた時、たまたまバックミラー越しに達也くんのお父さんの顔が見えたんだ。

その時……笑ってた。

まるで何かが取り憑いてるみたいに」


「……」


「でね、あの顔——僕、一度だけ見たことがあるんだ」


和政の声がわずかに震えた。

俺は思わず身を乗り出す。


「これは僕が小学6年の時の話なんだけど……。

公園でサッカーしてて、友達の優磨が『トイレ行ってくる』って言うから、僕も行こうと思って、ついていったんだ。

トイレは公園の外れで、100mくらい歩けば着くはずだった」


和政はミルクティーを見つめながら続ける。


「なのに——いくら歩いても着かない。

200m歩いても、300m歩いても。

『なんか変じゃない?』って優磨に言ったんだけど……優磨はまったく歩みを止めなかった」


「仕方なく僕もついて行ったんだけど、道の雰囲気が明らかにおかしくて……

ついに優磨の手を掴んで止めたんだ。

そこで優磨が振り返った」


「すると——あの笑みを浮かべてた。

今日、達也くんのお父さんと同じ……あの悍ましい笑みを」


「僕は慌てて優磨の手を振り払って、後ろを振り返ったら……

いつの間にか道は消えてて、どこまでも暗い森が広がって、戻れそうになかった」


「……」


「その間も優磨は止まらず歩いていって……

ついに、あの“獄門”に辿り着いたんだ」

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