TSしたら親友♂が大好きになっちゃったけど、素直に言えるわけがない!

かきまぜたまご

第1話 日常が終わる予感

もう夕方になった。幼なじみの龍太郎と一緒に、買い物袋を両手に持って道を歩く。


「ありがとな、買い出し手伝ってくれて」


「気にするな。1人で持つには、この量は重いだろう」


さすが野球部主将、これくらいなんてことないってわけですか。

明日は文化祭。うちのクラスが出店する焼きそばの材料を、学校終わりに買って帰る。


「そうだ、これは俺の家に持っていこう。明日の朝も手伝わせてくれ」


「え、いいのか?」


「当然だ」


優しい笑顔。変わらないな。


はこんなに支えてもらう側じゃなかったよな。


…この身体になってから龍太郎の力になったこと、何回あったっけ。


昔からよく入る龍太郎の家。

おばさんに挨拶をして、材料を冷蔵庫に入れる。


「なあ、部屋行ってもいい?」


「また漫画か?先に行っててくれ」


「はーい」


階段を上がって見慣れた部屋に入る。

もちろん漫画は読みたかったけど、目的は違う。


スゥ………ハァ………


ベッドに顔を埋める。

龍太郎の匂いがする。こうしてると心が落ち着くんだよな…。

良くないのは分かってるけど、少し発散しないとまたみたくなっちゃうし。


階段を上がってくる足音が聞こえてきた!

急いで漫画を取って椅子に座る。

部屋に入ってきた龍太郎は、いつものようにお茶とお菓子を持ってきてくれた。ゴチになります。


「本当に好きだな」


「はあっ!?」


「その漫画、いつも読んでるだろ?」


「あ、ああ〜!漫画?うん!ハマっててさ。ハハッ…」


「面白いだろう。何を隠そう、その漫画を読んで、俺は野球を始めたんだからな!」


野球部主将、龍堂りゅうどう 龍太郎りゅうたろう

小学生から野球を初め、高校2年生にも関わらずそのパワーでホームランを連発。爆発的な勢いで成長するその姿が注目を浴び、プロ入りも期待されている注目選手。

俺の幼なじみであり親友。


多分、俺は龍太郎が好きだ。

いつから好きになったんだっけ。この身体になった後なのは間違いないんだけど…うーん。


「…聞こうか迷ってたんだが。聞いていいか?」


「なに?」


「さっきの材料、ライキ1人に持たせるしては重すぎるんじゃないか?それに文化祭前日ってのもギリギリだ。…またいじめられているのか?」


真剣な顔。本気で心配してくれてるんだ。


「…買い出し係の奴らがさ、行くの忘れてたんだって。面倒くさがってたからもう俺が行くって言ってやったわけ。見ててイライラすんだ、皆で良い店にしようとしてるのにさ」


「そうか…」


「そんな心配すんなよ、何もないから」


「んん…そうだな。だが、何かあれば遠慮なく話してくれ」


「……もちろん!」


自分の家に帰り、風呂場で自分の身体を眺める。

高くなった声、20センチ縮んだ身長、膨らんだ胸…。


俺、黒川くろかわ 來稀らいきに半年前発症したある病気。


『突発性性転換症』

寝ている間に突然性別が変わってしまうこの原因不明の病気は、半年前に俺の性別を男から女に変えた。

元の性別に戻ることは無いそうだ。


当然周りから気味悪がられた。

でも龍太郎は、馬鹿にする奴らに激怒して俺をかばってくれた。

そんな龍太郎に、親友とは別の感情が生まれるのはそう遅くなかった。


「龍太郎龍太郎って…ハハッ。お前はホント…。親友と恋人…どっちが良いんだよ…」


翌日、文化祭当日。

俺たちが作る焼きそばが売れる売れる!


「ありがとうございましたー!」


午後になってクラスメイトにバトンタッチ!

遂に他クラスの出し物を回れるのだ!


「來稀くん…。來稀くん、ちょっと」


「あかりさん?」


他クラスの数少ない女子友達が手招きしている。

なんだろ?


「俺がメイド?!」


「頼むっす!!クラスの出し物がメイド喫茶なんすけど、女子が皆休んじゃって、このままじゃ大量のオムライスが売れ残っちゃうんすよ!」


「他の女子に頼めばいいじゃないですか」


「…そんな友達、いると思うっすか?」


あ…ごめん。


「男子は?いっそのこと男装メイドカフェとかどうですか。需要あるかも!」


「無えっす!というかうちの男ども無駄にプライド高いからメイド服なんか着ないっす!それに明日働くからって皆手伝いに来ないんすよ!」


ああ…そっか。あかりさんのクラスって、明日はホストの店に切り替えるんだっけ。でも来いよ。あかりさんとオムライスの危機だぞ。


「來稀くんが男なのは承知っす。でも私が頼れるのは來稀くんだけなんすよおお!」


泣いちゃった…。今頃龍太郎が待ってる頃だろうな。これから出し物を回る予定なのに。

うーん…うーーん…………。


「いらっしゃいませー…」


負けた。無視できなかった…。

流石に見られてるなぁ。初めての女っぽい格好がメイド服、しかも学校だなんて。


「ありがとうっす!このご恩は忘れないっす!」


…まぁいっか。


30分後♡


「なんでこんなに人が来んだよ!!!」


「需要ありありっすねぇ、來稀ちゃん♡」


「おいおいあんま調子乗んなよ」


中には他校の生徒もいる。マジで大反響じゃん、なんで?


「ねえねえ、連絡先交換しね?今度ご飯行こうよ。君可愛いから色々奢るぜ?良い店知ってんだよねオレ」


チラチラ胸見てんのバレてんだよ下心丸出し坊主が先生呼ぶぞゴルァ!

しかし、初めてちゃんと女の子っぽい格好したけど、こんなに見られる目が違うんだな。


龍太郎が見たら…どう思うんだろ。


…何考えてんだ。龍太郎だぞ?男として見てるんだ、何も思わない。最悪気持ち悪いって思われるだろうな。優しいから表には出さないだろうけど。


「……龍太郎?」


絶対に来ないだろうと思っていたのに。

メイドとか興味あったのか?

マジか、見られた。けどそこじゃない。

隣にいる女の人は…誰だ…?


「どうしたんだ?その格好」


「えっ?あ…友達のクラス手伝ってて」


誰だ。まさか恋人?あの龍太郎が?

恋愛に興味ないってずっと言ってたのに…。


「あっ。龍堂くん、もしかしてこの子って?」


「ああ、親友の黒川來稀。ライキ、こちら野球部のマネージャーをしてもらってる相原あいはら 未零みれいさんだ」


胸が痛い。心臓を握られているみたいに。


「彼女には随分世話になっててな────」


やめてくれ!聞きたくない…!


文化祭の1日目は終了した。

龍太郎と相原さんは付き合っているのか気になってしょうがなかったけど、そんなこと聞けるわけがなかった。

というか、話の内容をほとんど覚えていない。

龍太郎の楽しそうな顔が脳裏に浮かぶ。初めて見た異性と仲良くしてる姿。こんなに苦しいなんて…。


その後あかりさんが泣いてお礼を言ってきたから、よしよしと泣き止ませてあげた。

……この子は社会でやっていけるんだろうか?。


片付けは私に任せるっす!と言うあかりさんと別れて正面玄関に向かう。


「もう帰ったかな…」


「黒川さん」


綺麗な青い髪、整った顔の美人がそこにいた。

さっき龍太郎と一緒にいた野球部のマネージャー、相原未零さんだ。


「…待ってたんですか?」


相原さんは笑みを浮かべる。


「少し話さない?」

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