第2話アナーキー都市~~アナリスレア自治都市国家~~

ヒューマ地域国首都ヒューマの鐘が三度鳴り響いた。

それは、平穏を告げる音ではない。

ヒューマ地域国に非常事態を発令したことを示す鐘の音であった。



北方の盗賊団討伐の任務を終え、わずか数日。

カロアとアイレンは冒険者ギルドで報告を終え、

安堵の息をついた矢先だった。



ギルドの扉が勢いよく開き、鎧姿の兵士が駆け込む。

兵士:「冒険者アレイン・カロア両名に通達!首都より至急召集命令だ!」



二人は顔を見合わせ、すぐに装備を整えてヒューマの王城へ向かった。

石造りの城門の前には、兵士たちが列をなし、

空気は緊迫に満ちていた。



謁見の間。

玉座の上で、王ジャガデが冷たい目を光らせていた。

その背後には王国の地図が掲げられ、

東部の境界線──“アナリスレア自治都市国家”が赤く塗られている。



ジャガデ:「……貴様ら、北方任務での働きは聞いている。

 だが今、我が国の東で何が起きているか知っているか?」



アイレンが一歩前に出る。


アイレン:「報告では、アナリスレア側から盗賊団が越境してきていると…」


ジャガデ:「越境だけではすまん!」


王の声が王座の間に轟いた。


ジャガデ:「奴らは我が領内の村を焼き、兵站を襲撃し、王国の民を殺しておる!

  テロ集団アナリスの牙と名乗る反乱勢力だ。

  ヒューマ地域国の統制を乱す敵として……討たねばならん!」



その言葉に、玉座の脇に控える参謀が地図を指し示した。


参謀:「現状、国境地帯の防衛線は崩壊寸前

  正規軍の派遣には時間がかかります

  ゆえに……冒険者を先行投入すべきと考えます」



ジャガデは顎を上げ、冷たく命じる。

「カロア、アイレン。お前たち兄弟に命ずる

 “アナリスレアから侵入した盗賊団とテロ集団を排除せよ”。

 この任務の成功如何で、お前たちの立場は決まる」


アイレンは静かに膝をつき、敬礼をした。


アイレン:「了解いたしました、陛下」



カロアもその隣で、拳を握りしめながら頭を下げる。


カロア:「……必ず、やり遂げます」



翌朝、国境付近。

灰色の空の下、焦げた村の残骸が風に揺れていた。

人影はなく、煙の匂いだけが残る。



アイレン:「……ここが、襲われた村か。」

アイレンの声には怒りよりも静かな悲しみがあった。


カロアは倒れた柵のそばにしゃがみ、地面を調べる。

カロア:「この足跡……重装の兵士じゃない。軽装で、しかも統率がない。

  やっぱり、盗賊崩れの連中だ。」



その時、遠くから金属の擦れる音が響いた。

乾いた風に乗り、何十という足音が草原を踏みしめてくる。



カロア:「兄さん……来る!」



森の影から現れたのは、黒い布を巻いた集団。

胸には赤い牙の紋章――《アナリスの牙》。

手には剣と弓矢、目には理性の欠片もない。



盗賊:「ヒューマの犬どもめぇぇぇ!」

怒号とともに、戦いが始まった。



戦場は混乱そのものだった。

弓矢が風を裂き、剣と剣がぶつかり、

血と火の匂いが入り混じる。




アイレンは冷静に敵を斬り伏せ、


アイレン:「カロア、左翼を取れ! 囲まれるぞ!」と指示を飛ばす。


カロアは応じて身を低くし、敵の隙を突いて斬り込む。



腕に傷を負いながらも、彼の動きには確かな成長が見られた。


カロア:「これが……戦場……!」


恐怖と緊張の中で、剣を振るう感覚が刻まれていく。



やがて敵の一団が崩れ始めた。

アイレンの一閃が首領格の男を斬り倒すと、

残った者たちは怒号を上げながら撤退していった。



草原には静寂が戻り、風が灰を巻き上げる。



夕刻。

二人は王都への報告書を携え、馬を走らせた。

血に染まった服、傷ついた剣、疲弊した身体。

だがその瞳には、迷いよりも確信があった。



カロア:「兄さん……俺たち、これからもっと過酷な戦いになるのかな。」


アイレン:「そうだろうな。アナリスレア自治都市国家との戦は、

  もはや避けられない。」



二人の背に夕日が沈み、

長い影が地平線の向こうへ伸びていく。



アイレンとカロアはヒューマ地域国首都ヒューマへと帰還した。

するとヒューマに再び鐘が鳴り響く。

その音は今度こそ開戦を告げるものだった。



ヒューマ地域国、王ジャガデの命令によって

アナリスレア自治都市国家への侵攻作戦が正式に布告された。

その名も――《プレイン・ホライズン東方戦線》。



兵士たちは赤い鎧をまとい、戦旗を掲げて進軍する。

空は曇り、冷たい風が戦列をなでる中、

前線部隊の一角にカロアとアイレン兄弟の姿があった。



アイレン:「……カロア、無理はするな。前とは違う。本物の戦だ。」

カロア:「うん。でも、兄さん。俺たちの国を守るためなら、もう怖くないよ。」



カロアの瞳は真っ直ぐ前を見据えていた。

純粋無垢だった彼の心に、少しずつ戦場の現実が刻まれていく。



午前六時、開戦の号砲が鳴った。

アナリスレア側の丘陵地帯から黒煙が上がり、

盗賊団とテロ集団が一斉に突撃してくる。



「――敵襲ッ! 前線、構えぇッ!」



アイレンは叫び、部下の冒険者達を前へ出す。

カロアは剣を抜き、冷たい息を吐くと同時に突き出した。



刃がぶつかり、金属の音が連なる。

怒号、悲鳴、矢の唸り。

戦場は炎と血に包まれた。



カロアは正面から来る敵を斬り払い、

「これで終わりだッ!」と叫びながら仲間の背を守る。

アイレンもまた、弟の動きを見ながら戦線を押し返していく。



アイレン:「右の丘を取るぞ! 押せぇぇ!」



激戦が続く中、敵の勢いが次第に鈍り、

ヒューマ地域国軍は徐々に優勢となった。

だが、勝利の瞬間はいつも唐突に奪われる。



風を裂く音――。



カロアの胸を鋭い痛みが貫いた。

視界が揺れ、血が弾け、世界が遠のく。



アイレン:「カロアッ!!!」



アイレンの叫びが戦場に響いた。

弟の身体を抱きかかえると、背中には黒羽の矢が深々と突き刺さっていた。

周囲の兵が駆け寄り、アイレンは怒号混じりに命じる。



アイレン:「衛生兵を呼べッ!! 今すぐだ!!」



血で濡れた地面の上、カロアはうっすらと目を開けた。



カロア:「兄さん……僕……ちゃんと戦えたよね……?」


アイレン:「喋るな、今は……休め。」



震える手で弟の手を握りながら、

アイレンは必死に声を押し殺した。



数時間後、戦場の後方に設営された野戦病院。

天幕の中には、呻き声と薬草の匂い、鉄の味が混じる。



カロアは血に染まった包帯を巻かれ、

必死に呼吸を続けていた。

医師が額の汗を拭いながら言う。



医師:「矢は深く入っていた……奇跡的に心臓は外れているが、

  出血がひどい。意識を保てるかどうか……。」



アイレンはその言葉に唇を噛み締めた。

弟の手を離さず、ただ願う。



アイレン:「……頼む、カロア。目を開けろ。

  お前がいなきゃ、この戦場に意味なんてない。」



外ではまだ砲声が遠くに響いている。

夜が更け、天幕の灯が揺れるたび、

アイレンの瞳には涙が光っていた。


アイレン:「次は、俺が守る番だ……。」



その声は誰にも届かぬほど小さく、

しかし確かな誓いとして野戦病院の夜に刻まれた。



夜明け前の野戦病院。

薄明の光が天幕の隙間から差し込み、

血の匂いと薬草の香が混じる静寂の中に、

一つの命が静かに途絶えた。



カロア――二十歳。

冒険者として初めて世界を見ようと願った青年は、

その短い生涯を、戦場で終えた。



医師の小さな「安らかに」という声のあと、

全てが止まった。

その横で、アイレンは何も言わず、ただ弟の手を握っていた。



外では戦が続く。

だが、その音さえ遠くに聞こえるほど、

アイレンの心には深い静寂が広がっていた。



数日後。

報復作戦アナリス制圧戦が発令された。

アイレンは指揮を任されたがアイレンは指揮を辞退し家へ帰っていった。



帰還後。

アイレンは静かに家の扉を開けた。

誰もいない部屋。

机の上には、弟が磨いていた片手剣と、

冒険者登録証が置かれていた。



彼は椅子に腰を下ろし、

その剣をゆっくりと握り締めた。



アイレン:「カロア…お前の夢は俺が生きて見届ける…」



外では風が吹き、

遠くで鐘が鳴る。

それは戦の終わりを告げる音であり、

ひとつの兄弟の物語の幕引きでもあった。



アイレンの瞳から静かに涙が落ちる。

その涙は、勝利の報酬ではなく、

失われた絆の痛みそのものだった。



そして――

プレイン・ホライズンの空には、雲一つない蒼穹が広がっていた。



~~一方その頃カロア視点~~


短き生涯を終えたと思ったカロアは、

ヒューマ地域国の治療院にいたが何か変だった。

カロアは目を覚ましたが全ての記憶を失っていた。



カロア:「ここは…どこだ?」



性格も口調も変わっていた。

カロアの目の前にいた、ヒューマ地域国の王ジャガデが言った。



ジャガデ:「ここは、ヒューマ地域国お前はこの国の将軍だ」



カロアは理解した様に口を開いた。



カロア:「了解しました」



短き生涯を終えたはずの青年は生き返ったが記憶を喪失して

ジャガデ直属の軍の将軍となった。



第二話「アナーキー都市~~アナリスレア自治都市国家~~」終了、次回第三話「アイレンの旅~~二つに分かれた旅~~」

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