待雪草

逢坂らと

第1話 妖

この頃おウチで流行るもの、

和装、白塗り、香水、リップ

(口紅とも言われます)。


栄螺さざえはやの串刺しに、

生のお牡蠣かきを頂きましょう。


先走り 失敗したなら 沙羅双樹なつツバキ


ゆくゆくサエ子は やるせない




サエ子はウチの戸を、そっと閉めました。

庭に向日葵が咲いておりました。

30本は咲いていたでしょう。

サエ子の庭はとても広かったのですから。


昼食はカレーライスにでもしようと思っていました。

なんの変哲もない、

至って普通のカレーライスです。

サエ子はそれが大好きでした。

幼い頃からそうでした。


あれやこれやと悩みながら作られた

まるで美術品のようなカレーは

どうも好かんのです。


普通の。

今では珍しい、

普通のカレーが欲しいのです。



女の目はひどく濁っておりました。

まるでこの世の全てのけがれでも見たのか、

というぐらい濁っておりました。


しかし、魚が濁り水を好むように、

私たちも彼女のそれに何処とない魅力を感じとっておりました。

きっとそれは本能的に女から発せられているのでしょう。

そしてそれを野生動物本来の、

本能というもので我々も受け取っているのです。


サエ子は文字をえがくことができませんでした。

読むことはできます。

でも漢字は苦手で、たまに読めません。


今ではもう、

みんながみんな読み書きができる時代です。

できない人の方が珍しいかもしれません。


だからといって、

別にサエ子がおかしいわけではないのです。

むしろ、周りの人々の方が変なのです。


だってつい最近までは

一般の人は文字の読み書きがのが普通でしたから。


サエ子は至って平凡な人間なのです。

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