第15話 : 彌田さん、僕を少し頼ってくれ

 その日の放課後、異変は突然やって来た。


「あの~、生物部はこちらで宜しいですか」


 僕が所属する生物部は生物実験室を部室となっている。

 顕微鏡や染色液などの基本的な機材は自由に使えるし、中庭にあるビオトープや小動物の飼育小屋は自分達のフィールドで、部員が当番制で管理している。


 また、花壇の一角に野菜を栽培する場所があり、こちらは家政部と共同管理となっていて、時折、自分達が育てた食材を使った美味しい料理をご馳走になっている。


 そんな地味な活動しかしていないから、例年入部してくるのは生き物が大好きな限られた人だけ──僕の学年では僕と七種さんしかいないし、知る限り見学に来たのもこの二人しかいない──だったのに。


「そうです。見学の方ですか」

「は、はい……やっぱりカワイイですね」

「はい? 今、なんて」

「い、いえ、この部に興味があって活動を見せて頂きたくて来ました」


 この人、生き物に興味があるのだろうかと疑いたくなる女子が数名。

 一方で、


「こんな美人の先輩がいる部があるなんて」

「生き物に興味があって来ているのではないですか」

「は、はい。先輩も立派な生き物です」


 常盤さんと並んで学校一の美女と同性でさえ認める七種さん目当てにちょっとアブナイ雰囲気の新入生が来ていたりする。

 もちろん見学は自由だし、入部は大歓迎だけど、あまり活動の目的からずれているとちょっと困るかなと言う本音もある。


「私、男の子には興味がないの。ごめんね」


 実の所、七種さんは若い男性に興味が全くない。

 自分よりも年上、それも中年の域にある『ダンディなオヤジ』が大好きなのだそうだ。

 詳しくは知らないけど、この一年でそんな話を何度か聞いたことがある。

 曰く、「頼りない同世代よりも経験豊富で包容力がありそうなカッコイイ殿方が好き」とのこと。

 殿方って……


 そうやって見学に来た男子高校生をメッタ斬りにしていき、結局残ったのは女子が三人だけだったというのは後日の話。

 数日間は他の部から羨ましがられるほどの人が集まって来ていたのだった。


 一方で彌田さん達文芸部も大忙しだったと聞いた。

 特に、創作活動が入試に役立つと聞いた人達が集まってきたそうで、小論文作成にどれ程有利かという質問攻めにあったのだそうだ。

 もちろん想定済みのことなので答えを用意してあったのだけど、○○大学の入試の場合ならどうだとか、○○学部ならどこまでの文章が書ければ良いのだろうとか細かな質問が多かったのに閉口したと言っていた。

「そんなこと予備校で聞けば良いのに……」とは彌田さんの愚痴だった。


 そんなある日、僕は廊下で新入生のこんな会話を耳にした。


「文芸部のロリ先輩、話を聞くだけで癒やされるわ」

「そうよね、あの庇護欲をそそる姿はずるいわよね」


 ロリ先輩とはもちろん彌田さんだろう。

 文芸部では断トツに小さいし、僕だって彌田さんの何事にも一生懸命な姿を見ると応援したくなる。


「ロリ先輩を狙っている男子もいるって話よ」

「ロリコンは一定数いるからね」


 七種さん目当ての男子は彼女自身がほぼ撃退したけど、普段はあまり目立たない彌田さんが彼女目当ての連中をはねのけられるとは思えない。

 彌田さんを合法ロリとしか見られない連中から守るには……

 僕が盾になってあげられれば良いのだけど。


 そんなある日、登校したら彌田さんがとても悩んでいる顔をしていた。

 なんでも、彌田さんの姿を身近で見ていたくて文芸部に入りたいという男子がいたのだそうだ。


「文芸が好きならば歓迎するけど、その子、漫画以外だと参考書しか本を持っていないと言ったそうよ」


 常盤さんがそう教えてくれた。

 彌田さんの危機じゃないか。


 その日の昼休み、僕は教室で机をくっつけて櫻葉、彌田さん、常盤さんの四人でお弁当を食べていた。

 それぞれ個性はあるけど、彌田さんの弁当だけが断トツで輝いていた。

 中華系の料理が点心として綺麗に配置されている。

 売り物並み、いやそれ以上だ。冷凍食品を使っても普通の家庭ではここまで用意できないだろうに。


 そんなお弁当を彼女は物憂げに見ながらそろりそろりと食べている。

 明らかに元気がない。


「彌田さん、大丈夫? 僕にできることがあれば体を張ってでも彌田さんを守るから」

「え、う、うん……」

「彌田さん、こう見えてコイツかなり腕っ節は強いんだよ」 

「へ?」

「ボディガードくらいはできるからさ」

「海鈴、永瀬君に少し助けてもらったら。一人で抱え込んじゃうのは悪い癖だよ」

「でも」

「僕を少し頼って欲しいな。こう見えてもちょっとは戦えるよ」


 そう言って立ち上がり、空手の演武もどきをしてみせた。

 彌田さんがその時、赤い顔をしながら春巻きを口に運ぶのがチラリと見えた。

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