第2話 MC
『いやー、今日の校内ラジオも盛り上がったね!』
『私のクラスも盛り上がっていたよ。英吉のクラスはどうだった?』
「こっちもいつも通り好評だったよ」
『宇水ABC』の放送をした水曜の夜、俺たちMC陣はトークアプリ『RINE』のグループ通話機能で連絡を取り合って反省会や打ち合わせをするのが恒例になっていた。
校内ラジオ『宇水ABC』のMCである、エー、ビー、シーはそれぞれ学園の生徒である。
ていうか、その内の一人は俺だ。
クラスでボッチの俺が、校内ラジオのMCとしてここまで注目されるのはいまいち変な感じだ。
『先輩はいまだに自分がエーってバレてないんですか?』
「ああ。多分、誰一人俺がエーだって疑ってる人はいないと思うぞ。なんなら、俺の声を知ってる人すらほとんどいないだろうし」
『先輩……可哀想……』
「おい、やめろ志帆、本気で同情するな。それは俺に効く」
『……ふむ、英吉の存在感の無さには驚かされてばかりだ。確かにその影の薄さは私や志帆では再現不可能だろう』
「ナチュラルにディスらないでもらっていいですかね! それに、麗羽や志帆ほどの目立つ生徒と比べるなよ!!」
宇水高校の3年生であり、2期連続の生徒会長。
蜂翔グループのご令嬢で、昔から英才教育を受けていたのか、成績は常にトップだ。
ちなみに、このトップというのは学内ではなく全国で、という意味だ。
外国の血が入っており、日本では珍しい銀髪で、トレードマークの黒のカチューシャをいつもつけている。
そして、息を飲むほどの美人で、見る人を魅了していく。
そして、この女性こそ、『宇水ABC』のMCの一人、ビーである。
ちなみに、ビーは名字である蜂翔の『蜂』からとった。
『あはは、アタシも会長と比べられるのは忍びないですよ』
「いやいやいや、志帆も学校だと麗羽と変わらないくらい有名人だからな」
『えー!? アタシ、会長と違って別に学年主席でもないですし、目立つ要素はないと思うんですけど……』
志帆は宇水高校の一年生。
髪はセミロングで、学内では常にポニーテールでくくっているのが特徴だ。
誰にでも優しく、屈託のない笑顔は見る人を魅了しつづけ、入学してわずか三ヶ月もしないうちに、宇水高校では知らない人がいないというほど目立つ生徒になった。
麗羽を『綺麗』と形容するなら、志帆は『可愛い』と表現するのがぴったりだ。
志帆は麗羽ほど目立たないと思っているようだけど、あなたも相当目立ちますからね!?
そして、志帆も『宇水ABC』のMCの一人、シーである。
シーの名前の由来はそのままで、名字と名前がどっちも『し』から始まるからだ。
『志帆は無自覚なのかもしれないが、十分私と同じくらいの知名度はあるぞ』
『えー、そんな事ないですって。なんでアタシが有名なんですか?』
『顔だろ』
「顔だろ」
俺と麗羽が綺麗にはもりながら答える。
高校生なんて、顔がいいだけで学校中から目立つからな。
まあ、志帆の場合は顔だけじゃなくて、性格もいいから更に学内の評判が上がり続けてるんだけどな。
『か、顔ですか!? ……アタシ、そんな変な顔してますかねぇ?』
「なんでそうなるんだよ……」
『そうだぞ。それに、変な顔は英吉だけで十分だ』
「思わぬ方向から思わぬタイミングでディスるのやめてくれませんかね!?」
麗羽は隙あらば俺のことをいつもいじってくる。
学校の皆さん、騙されないでくださいね!
これがこの女の本性ですよ!!
『ア……アタシは先輩の顔、いいと思いますよ!』
「……ありがとう。学内で俺に優しいのは志帆だけだ……」
俺が麗羽にいじられてるのを聞き、志帆がフォローしてくれる。
多分、これ以上優しくされたら泣いてしまう。
『優しくされるどころか、学校で英吉に話しかける人はいるのか?』
「それくらい、いらぁ!!」
『ほお……それじゃあ、最後にクラスメイトと雑談をしたのはいつだ?』
「………………」
『ちなみに、『ああ』とか『はい』といった返答だけではなく、ちゃんとした会話だからな?』
『ちょっと、会長、何言ってるんですか。いくら先輩がボッチだからって多少の会話くらい毎日してるに決まってるじゃないですかー』
「………………」
『おーい、英吉ー? どうしたー?』
『先輩、大丈夫ですか?』
「もう、この話やめないか?」
別にボッチであることには慣れているが、現実を突きつけられると込み上げてくるものがある。
はんっ……いいさ!!
俺は俺で楽しく学校生活送っているからな!!
毎日休み時間のたびにマンガや小説を読んだり、ソシャゲで遊んだりして充実してるし、昼休みとかは昼食を食べたらしっかり昼寝もするから、午後も集中して勉強できるし!
良いこと尽くめさ。
ここ2、3日くらい、クラスで声すら発してないなぁ……って思ったって悲しくなんてならないさ!!
『先輩はもっと積極性さえあればもっと人気者になれると思うのに……』
『それは私も賛成だな。少なくとも、トーク力があるのは校内ラジオで証明されただろ?』
「いや、別に人気者に憧れてる訳でもないし、ぼっちはぼっちで楽なんだぞ? ……それに、人との会話はこうして麗羽や志帆としてるから十分満たされてるよ」
『うっ』
『むっ』
「悪態ばっかりついてるけど、実は俺はこの時間が結構好きだからさ。それに俺のトークが面白いって評判なのは、多分麗羽と志帆と喋ってるのが特別楽しいからで、他の人と喋ってもこうはいかないよ」
『うぅ』
『むぅ』
さっきから、二人が小さい声で唸っている。
……俺、何か変な事言ったか?
ただ、二人に対して日頃から思っている感謝を伝えただけだけどな……
『先輩の基本的に捻くれてるくせに、たまに素直なところはずるいと思います……』
『そうだな……英吉のくせに生意気だと思う』
「なぜ感謝の気持ちを伝えたら不満を言われなければならないのか……」
捻くれてる自覚はあるが、素直な気持ちを伝えたらこの扱いだからな。
もっと捻くれてしまいそうだ。
そして、もうお気づきだろうけど、俺こと
麗羽や志帆が宇水高校のスクールカーストの最上位に位置するとしたら、俺はその真逆で、カーストの最底辺。
底辺グループすら、生ぬるい。
まさに、底の底に位置する男だ。
俺一人で、スクールカーストのピラミッドを支えているといっても過言ではない。
友達なし、恋人なし、なんならクラスメイトに俺という存在すら認識されているかも怪しいまである。
『さて、雑談はこのくらいにしてそろそろ今日の反省会や次回のラジオの打ち合わせをするとするか』
話が逸れてきてしまっていたが、麗羽が軌道修正する。
そもそも、今日グループ通話をしようとしたのは『宇水ABC』の打ち合わせをするためだった。
「うーっす」
『はーい!』
俺と志帆はそれぞれ返事をする。
さて……
面倒だけど、お仕事を始めますか!
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