Baby, it's time
中村Y字路
始まりが何処からなのか、まだわからない中を揺蕩ってる。
何も云いたくないから、
ただ上の空だ。
桜が舞い散るのを見るのを怖いと思う日が来ると思わなかった。
それを知らない彼は
心配そうに握った手に力を込めたり、
『どうしたの?』
と私の顔を覗き込みながら訊いてきたりする。
年下って感じだなぁと思う私は
大概おばさんだな、と思う。
ちゃん付けで呼ばれる自分の名前を
不思議だと思ったり、
小学生のとき、一学年下に何故かモテて
何気なく告白されてしまっていた帰り道を思い出したり、
そういうことがぱったりなくなった昨今の渇き具合の自分に苦笑したり、
好きだった人のギターを弾く時の指先が夢に出て来たり、
そんな毎日の中で
気持ちの変動に大きなところはなく、
ただ上の空だ。
隣にいる彼は
私より4つ下で
私より頭一つ分背が高くて
目が少し細くて
今使っている眼鏡があんまり似合っていなくて
素顔のほうがかわいいと思う。
なんにしても顔が良いので、
ずっと眺めていられる。
気持ちに大きな変動はないが握られた手があたたかいことで
ただ上の空だ。
一緒にいてつまらなかったらごめんね、と思うのだが
さよならがきたら
それはそれと思って
今なら涙はふたつぶだろうと思う。
大きな嘘だが、そうやって言っておかないと、収拾がつかなくなる。
桜が目の前で散るので
思考がまとまらず
まとめる気もまるで起こらず
ただ上の空だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます