異世界転生した世界の、慣れ親しんだダンジョンで迷っている美女を助けたら、まさか彼女が魔王だった件—ハーレムエンドにはなりません—

一ノ宮美夜

第1話 俺の庭

 異世界転生。ライトノベルでよく聞くワードだが、正直バカにしていた。

 まさか、自分がなるとは思っていなかったからだ。

 この世界には魔法があって、そして魔族もおり、その頂点は魔王である。

 噂では、俺が降り立ったこの街の近所のダンジョンの奥深くに、その魔王はいるらしい。


 幸いにも、小学生の頃から剣道を習っていたので、剣を扱うのは慣れていた。

 が、やはり実際に戦うのと、剣道では勝手が違い、実際の魔物との戦闘は、異種格闘技のようなものだった。


 魔法も使い、剣を軽くし、身体能力も上げる。

 それにより、俺はこの街のギルドの頂点へと君臨した。

 所謂、ギルドマスターってやつだ。


 それでも、ダンジョン最深部へは行けてない。

 その途中にある迷宮の間の攻略が、非常に難しいからだ。

 複雑に入り組んだ迷路は、戻るのもできないんじゃないかってくらい、入り組んでおり、偶に帰って来れなくなった奴もいるくらいだ。


 そのせいか、いつしかダンジョンは迷宮ダンジョンとかいう、安直な名前を付けられ、俺はその迷宮の間までの道のりを今日も歩く。


 魔物は迷宮を超えて来ているのか、この辺りでただ湧いているのか。

 先週買ったばかりの剣がもうダメになった。


 新しい剣を買いに行くか、それとも手入れして使うか……。

 この世界の剣は、溶かした金属を型に流し入れ、剣の形にして刃をつけるだけのものだ。

 なので刃こぼれは日常茶飯事で、凡そ日本刀何かとは比べるのも失礼だ。

 とはいえ、西洋の剣もそんなもんだったとか、なんとなく齧った知識がそう言っていた。


 ——こういうのって、最強の武器とか手に入れて無双するもんじゃないのか?


 そんな疑念が湧いてきたが、俺の物語はそうじゃないのかもしれない。


「あ、コヤナギさん! 新しい剣が仕入れられたばかりみたいですよ!」


「ああ、トマリさん。わざわざありがとうございます」


 トマリは俺と同い年くらいの青年だ。

 彼も転生して来たらしいが、商人の方が性に合ってるといい、冒険者にはならなかった。


「なんかテンプレみたいで嫌じゃないですか」


 彼はそう言っていた。

 俺はテンプレかと思いつつ、まあテンプレではないかとも思う。

 大体のテンプレは、主人公が最強で、さっきも言ったみたいにダンジョンで無双して、なんか可愛い女の子とパーティーを組んだりして、ハーレムになる、みたいなことだろう。


 俺の周りにいるのは、むさ苦しい屈強な男達と、ギルドの受付の婆ちゃんくらいだ。

 この街はやはり魔王の近くというだけあって、女や子供は少ない。

 俺がハーレムを迎えるには、この世界を平和にしなきゃいけないみたいだ。


「コヤナギさん、何考えてるんすか?」

「いや何も……」

「またいやらしいことっすか?」

「なんでそうなる……」


 トマリの手にある剣は、遠くの街から仕入れた剣らしく、何やら宝石も付いていて、これはまるでマテ……いや、なんでもない。


「かっこいいっすよね。ファイファルのソラウドみたいな……」

「アックスが元は持ってたろ」

「いやぁ、リメイクやりたかったなぁ」


 トマリはゲーム好きで、PF5を真っ先に買った猛者でもある。

 PCゲームも嗜み、ゲーム知識はかなりある。


「コヤナギさんはどっちかというと……レイールみたいですよね」

「8か……そんな暗いか? 俺って」

「暗いというか、クールというか……」


 トマリはそう言うと、剣を俺に渡した。


「コヤナギ君。それ、5万だからね」


 武器屋の店主がそう言うと、俺はサイフの中身を確認した。

 そう言えば、この前迷宮から助けた物好きな貴族がたんまり褒美をくれたことを忘れており、重たくなっていた体の原因がわかった。


「じゃあこれ」

「え、あるのかい?」

「こないだ命知らずの貴族を助けたんで」

「ああ……あの人らか。うちから武器全部買ってって……だからこれを仕入れられたんだがね」


 店主は蓄えた髭を撫でながらそう言うと、札をちゃんと数える。

 確認し終えると、剣を鞘に入れて俺に渡した。


「ほらよ。安モンと比べてどれくらいだったか、あとで感想聞かせてくれ」

「ああ、もちろん。でも、どうしてこんな魔王がそばに居る街だってのに、安モンの剣しかないんだ?」

「そりゃ……戦闘のメインは遠距離だからだよ。魔法、もしくは弓。剣で戦うのはアンタくらいだよ。コヤナギ」


 武器屋を出てトマリは言う。


「コヤナギさんって剣道部だったんすよね? 竹刀と扱い違うくないっすか?」

「最初は苦労したよ。竹刀を振るのと訳が違うし、戦いもそうだし」

「へぇ……因みに俺は柔道やってました。高校の途中までっすけどね。それからはゲーム三昧でした。ゲームの知識が役立ちそうなんで、またいつでも相談してください! じゃあ、俺、この後会議があるんで」

「ああ、またな」


 俺は家に帰る。家とは言うが、適当に建てた掘立て小屋だ。

 ベッドと雨風を凌ぐための壁と屋根。

 それだけあれば十分だ。

 まだ昼過ぎ、もう一回ダンジョンに入るか迷いながら新しく買った剣をニヤけながら見ていた。

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