ハネユル短編集
羽の赦し記録者
短編 アイビー
雨のさんざめく中、傘に雨が打ち付ける音がまるでけたたましい枝切りチェーンソーのように聴こえた。
ネオンライトが雨粒のせいで頻繁に屈折して、暗い夜を照らす。
だが、男にとっては雨の時にはその見慣れた光景でさえ、何も思わない。
雨の日の次の日に道端でミミズが乾燥から逃げようと醜く蠢いているようなものを見る感じだ。
子供の頃はミミズの苦労など知らず、弄ぶが……大人になると無視をする。
そんな感じだ。
そして、家に帰宅して……いつものように食事をして、風呂に入り、歯を磨いて、少しだけスマホでネットサーフィンをして……寝る。
そして、朝起きたら準備をして会社に出かける……。
いつもと同じ景色と行為の繰り返し。
ふと、自分なんて居ても居なくても同じではないかと思ってしまう。
そんな虚しい心を秘めて電気を消して男は眠った─────。
『久しぶり……』
白い景色の中、女性の声が聴こえた。
その声はまるで哀愁に満ちたバラードのように……、男に悲しみと懐かしさ与えて……。
けれども情熱を歌うラブソングのように男の心を舞い踊りたくなるぐらい興奮させた。
水に片栗粉をふんだんに入れたようにモヤがかかった世界が。
『10年ぶりだね……』
その女性の声を聞いた途端に男の視界が雨は降っているのに晴れているように不思議な感覚を与えて……見えないのに姿が見えるという異質な状況を与えた。
「お前なのか?」
『そうだよ……』
その声は10年前に死んだはずの男の同級生だった。
『あの時の返事をしたくて……必死にある人に頼んで……この場を設けてもらったんだ……!!』
「なんで……そんなことを……」
男はその意味を瞬時に理解する。
男は彼女に片思いをしていた。
そして、ある日、勇気を出して告白する。
しかし、儚くもその恋は実らなかった。
別にフラれたとかじゃない。
単純に彼女が男の前から消え去って返事が聞けなくなったためだ。
彼女はその日の夕方の帰り道。
酒に酔った男が運転した車に轢かれて亡くなった。
最初はその運転手をその手で葬ってやりたいほど憎んだ……。
だが、時というものがその想いすら風化させた。
そして、今夜。
その想いまるで息を吹き返したように爆発して、男は一歩足を前に出そうとして……。
『来ちゃダメ……それ以上来たらあなたは死んでしまうから……そういう約束だから……』
「そんな……!!」
残酷過ぎる条件……。
男の視界が歪んだ。
そして、頬から一筋のまるで飴細工がそのまま溶けるように透明な何かが落ちた。
『大好きだよ……だから、生きて……?あなたを一生……』
そこで声は途切れた。
そして────────男が目覚める。
大量の汗と……頬に一筋の涙が垂れていた。
数十年後。
とある身よりのない男の老人がある病院で息を引き取った。
遺体が霊安室に移送されてベッドが空になる。
そして、とある看護師が一人で次の患者のためにベッドを用意していると……。
窓際にアイビーの花が置いてあった。
「誰が置いた物かしら……?」
看護師は声を出してそう言ったが……。
興味を無くして花を片付けた。
その花はアイビーだった。
花言葉は……。
"一生あなたを想っています"
短編 アイビー 〜完〜
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