第7話「承認欲求」
「シャロ家の魔女は、承認欲求が強いもので」
人間が、異能なる力を持つ精霊と長く付き合いを続けてしまったからかもしれない。
精霊を酷使し過ぎた結果が、魔物の誕生へと繋がったのかもしれない。
そんな、かもしれないという妄想が、あながち間違ってはいない。
そう確信に変わっていくからこそ、私は強さを得られる。
「誰かの願いを、一方的に叶えませんか?」
「素敵な自己満足ですね」
「自分が満足できるなら、それは最高の人生だと思いますよ」
自己満足という言葉が、皮肉めいた言葉のようにも聞こえてくる。
でも、フェリーさんの優しい声は、その皮肉さすらも打ち消す。
「私は、シャロ家の血を継ぐ魔女です」
恵みの雨を降らせていた空に決意を投げかけたところで、未来を教えてくれる精霊は存在しない。
「でも、私は贄でもあります」
だったら、私は目の前にいる人に力を貸す。
見えない未来のためではなく、自分を必要としてくれる人のために手を差し伸べたい。
「いつまでも、足手まといではいられません」
幽閉されたような生活を送ってきたけれど、双子の妹がいたおかげで外の世界の情報を得ることができた。
その
「私にも、情報をください」
たった一人でも手に力を込めることができるのだと、誰に見せつけることもない自身の手にぎゅっと力を込める。
「……僕は終わらせるために、精霊と縁を切りたい」
ぽつりぽつりと、弱くなったフェリーさん声が抱えている事情を語り始めた。
「そのために、アッシュ家に尽力されているんですね」
「アッシュ家に、シャロ家と並ぶほどの忠誠心があるからです」
フェリーさんが、教室の出入り口に向かって歩き出す。
そして、外の世界へと向かうために私を手招く。
「僕は教師の役割を、ステラさんは学生としての役割を」
学生に与えられた役割は、学ぶこと。
そう言わんばかりに、フェリーさんは学業を優先させるために私の背を押した。
「それぞれの環境で、事件を解決させるための糸口を」
シャロ家の人間を独りにすることを心配していたようだったけれど、私も立派な魔女だということを証明するために凛とした態度を準備した。
「一人で突っ走らないでくださいね」
「シャロ家の魔女のご命令とあらば」
そんなかりそめの姿だけでは、フェリーさんを納得できたとは思えない。
フェリーさんは惜しみながらも、私と別れることを選んだ。
「はぁ」
溜め息を吐いたのは、自分の無力さを嘆いたからではない。
(学園に来てから、ずっと気持ち悪い……)
男女が同じ校舎に通うという特異な場所にいるせいなのか、ぐちゃぐちゃと混ざり合った感情が自分の思考に止めを刺すため襲いかかってくる。
(嫉妬、憎悪、恐怖、絶望、孤独、怨恨……)
ノクティス・アカデミアに通う人たちは魔法使いのため、精霊には馴染みがある。
それらの馴染みは、遺体が見つかったときの恐怖を和らげていることに繋がっているのは本当だと思う。
(でも、平気な素振りをしてる人もいる)
魔法使いなら、誰もが恐怖に打ち勝てると思ったら大間違い。
恐怖の感情に支配されている人物が、学園に潜んでいることも確か。
私は学園を支配している感情を丁寧に拾い上げていく。
(あとは、視線……)
誰かに見られているという視線を感じるのに、振り返ったときに私へと視線を向けている人物はいない。
(もしかすると、全員が私に視線を向けてるのかも)
シャロ家の魔女と名乗ろうが、アッシュ家の令嬢と名乗ろうが、私の立場というものは変わらないのかもしれない。
(それとも、魔物の視線……?)
ぐるぐると考えを巡らせたところで、名案が浮かぶはずもなく。
考えることを諦め、自分が通うことになる教室に戻ろうとしたときのことだった。
「良かった、無事で……」
振り返ると、そこには息を切らしながら私に駆け寄ってきたユウの姿。
「って、大丈夫ですか、汗が……」
「はぁ、は、俺のことなんて……どうでもいいから……」
ユウの妹であるユマリに渡された華やかな刺繍が施されたハンカチで、ユウの汗を優しく拭う。
するとユウは抵抗することもなく、深く息を吸いこんでは吐き出してを繰り返した。
「私、頼りないかもしれませんが、シャロ家の人間ですよ」
ユウの焦る気持ちを落ち着かせるために、優しい笑みを浮かべられるように心がけた。
「自信過剰は、失敗に繋がる……」
ユウがゆっくりと顔を上げ、満足げな溜め息を吐き出した。
少なくとも、私の返しに機嫌を損ねたということはなさそうだった。
「ありがと」
「これ、ユマリがくれたハンカチなんです」
「それは嫌かも……」
「ふふっ、贄は物持ちが悪いので」
呼吸が落ち着いてくると、ユウは自身の指を緩い力で握ったところが視界に入ってきた。
「護衛を頼んだ女子生徒の二人は……」
「どこをどう見ても、平和そのものだと思うけど」
「ありがとうございます」
「魔女の命は、絶対だからな」
上がったユウの口角を見て、今が平和な時間だということを確認する。
「ただ、雨が降ったことを考えると、遺体が見つかってないだけかも……」
「音精霊」
ユウは契約札の力を最大限に活用し、狐のような容姿をした黄金色の毛並みが特徴の精霊を召喚した。
「学園生活を楽しんでほしかったけど、そうもいかないな」
「贄は、楽しまない方がいいと思います」
「まだ、その設定続けんのかよ……」
「魔物探し、頑張りましょう」
なるべくユウが、責任を感じないような言葉を投げかけるように心がけたい。
けれど、ユウはすぐに顔を逸らしてしまうから表情を確認することができなくなる。
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