第3話「推しを見つける」
「シャロの血を、どこの家系も必要としてる……」
「贄ですから。なんとなくの事情は理解しているつもりです」
「でも、魔女様には、酷なこと……強いる……から」
「精霊との別れを選んだのは私です」
精霊が生贄を必要としていないことは、とうの昔から分かっていたこと。
でも、崖から転落させられることで、私は十六の歳に命を終える予定だった。
「私の選択は、誰かに強いられたものではありません」
その命を救ってくれたことに、アッシュ家には感謝の意を示しているつもりではいる。でも、出会ったばかりの間柄では、その感謝の気持ちが伝わっていないことに気づかされる。
「その優しさが、精霊と仲良くする際にも生かされているのですね」
「え」
「幻精霊が、アスマさんに視線を向けてます」
私たちを学園へと送り出してくれるのは小鳥ではなく、純白の美しい羽を羽ばたかせる幻精霊。
幻精霊の視線が、自分に集中していることに気づかなかったアスマさんは目を見開いて空を見上げた。
「空、綺麗ですね」
「……うん」
幻精霊を視界に入れたアスマさんは、学園へと続く地面に視線を下げてしまった。
アスマさんが精霊を視界に入れないようにしたのは、いつか来る別れの寂しさを想ってのことなのかもしれない。
(私たちは、精霊との別れを選んだ魔法使いだから)
手にぎゅっと力を込めて、迷いを断ち切ろうとしたときのことだった。
「
欲しい情報を得る機会を得ることができて、必死に耳を傾けようと意気込んだ。
「主要なのはアッシュ、ブルック、ヘイル、ソーン……」
「すみません……」
「魔女様?」
「瞬時に家系を覚えられるほど、記憶力が……」
寡黙なアスマさんが魔女に情報をくれることの意味を噛み締めながらも、自身の記憶力の無さを恥じる。
すると、私の記憶力に配慮してくれたのか、アスマさんの顔がほんの少しだけ綻んで見えた。
「じゃあ、まずは少しずつ。
「アッシュ家が、一番上……」
「正解。その十四の家系を統率してるのが、シャロ家」
「なるほど……」
欲しい情報を手に入れることはできても、これから十四の家系を記憶しなければいけないのかと思うだけで気が遠くなってしまう。
「ほんの少し……顔が険しい」
「え」
「当たってる……?」
アスマさんとは出会ったばかりなのに、感情を表現するのが苦手な私のことをお見通しのようだった。
「記憶力が悪いので、十四も覚えられるか心配でした」
感情を抑える癖がついていて、それはずっと死ぬまで付きまとう癖だと思ってきた。
でも、私の顔は、険しさを表現できていたらしい。
「誰だって覚えるの、大変だと思う」
「親戚が増えたと考えれば、乗り切れそうな……」
「世間は、推しを見つけるって聞いた」
「おし?」
自分の感情に蓋をしてきた人間が、こうも言葉数が増える毎日を送ることができるようになったことに感動が生まれる。
上手く笑えていないかもしれないけど、アスマさんとの会話が途絶えることはない。
「推し文化、ですか」
「
「とてもわかりやすいです」
アスマさんと言葉を交わし合うことで、自分の記憶力への不安が一気に解消されていくような気がした。
これを上手く笑顔で表現できたらと思うけど、まだまだ自分の表情筋は課題が多いのだと調子に乗らないように気をつけたい。
「魔女様が会った中だと、モス家が十四番目で一番下かな」
「モス家が十四番目……?」
「どうかした?」
「あ……エグバートさんとフェリーさん、親しそうに見えたので……」
エグバートさんとフェリーさんの間に親しみを感じていたため、序列なんてあってないようなものなのかもしれない。
「エグバートくんが、垣根を取り払おうとしてるってのが正しいかな」
序列は重んじるべきものと言わんばかりに、アスマさんが深刻そうな声で語る。
「アッシュ家が、魔法使いとして優秀なのは間違いない。でも、エグバートくんは、体が弱いから……」
「味方を増やすため、ですね」
「うん、良い人を装って、アッシュ家の味方を増やしたいって思惑があるんだと思う」
アスマさんの言葉に呼応するように、どこかで幻精霊が鳴いた。
「そんなことしなくても、エグバートくんが優しいってこと……知ってるのにね」
鳥のような鳴き声が訴えているものを尋ねたら、きっとアスマさんを心配して鳴いたと返してくれる。そんな確信めいたことが脳裏を過り、自然と手に力が入った。
「精霊と縁を切りたいって思ってる人たち……みんな、優しすぎ……」
「ユウも含まれているんですね」
「ユウなんて、特に……」
率先してフェリーさんの治療に当たるユウを見ているため、大きな優しさを秘めているのだと察することはできる。
「もっと非情にならないと、精霊とは縁が切れない……」
口数が少ない印象のアスマさんの口数が増えて、彼が強い覚悟を持って戦いに赴いているのだと知った。
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