case2-3
掛川は摩池庫が抱きしめているノートの中身が気になっていた。ノートの中には摩池庫が昨日友人から聞いた内容が書かれているらしい。
「そのノート見せてくれる?」
「どうぞ」
摩池庫はノートを手渡した。掛川はデスクの上にノートを置いて、一ページずつじっくりと内容を読み込んでいく。シャーペンで書いた綺麗な文字で詳細に出来事が書かれている。端には摩池庫の考察と思われる箇条書きがちょくちょくあった。視点は鋭い。掛川はあくまで参考程度に気に留めていた。
出来事は先週の水曜日午後九時四十分に遡る。摩池庫の友人と他二人で八時半に大学の最寄り駅に集合する予定だったらしい。けれど、一人が待ち合わせに遅刻した結果、大学に到着したのは午後九時四十分だった。
摩池庫が通う大学は午後九時で警備員が完全に閉めてしまうようだ。行事等で活動をしていなければ教職員でも残ることは許されない。その為、三人は九時前に構内に忍び込み、警備員が帰るまで息をひそめる予定だったという。
九時を過ぎれば学校に入ることは出来ない。大学に入る全ての通用口を閉められるため、塀を上るしかなかったという。しかし、夜は閉じている車両通用口の門が開かれている上、日中は車が来る度に上がるバーも上がっていたため、三人はそこから入ったという。
構内に忍び込んだ三人は噂の場所に向かった。防犯カメラを避けて通った為、道のりは多少時間がかかった。
幽霊が出ると言われている場所は三階北側の廊下であった。ノートには摩池庫が書いた詳細なフロア図がある。窓は二か所。横に細長い窓で閉まっていた。廊下の一部分は外から光で照らされていた。
三人は別れて廊下の端からそれぞれ幽霊が出るのを待っていたようだが、その時間になっても現れなかった。一時間経過した頃に撤収して帰ろうとした時である。西側から球体がコンクリートの上で転がる音が聞こえた。
誰かがいると思い、三人は音が聞こえたキャンパスの西側に向かった。時間を過ぎてキャンパスに残っていることがばれてしまえば、処分が下されることは確実だ。最悪の場合、停学や除籍も免れない。しかし、ある一人は違う考えが浮かんだという。これが幽霊の正体なのではないだろうか。
そうして一人の考えから三人は音がするキャンパスの西側へ向かうこととなった。等間隔に点在する非常灯の光だけが頼りであった。足音を立てずに三人は一列になって進んでいく。角を曲がって顔を出すと一人の人物が小さな教室のドアの下でまさぐるような動作をしていた。
その人物は姿勢がしゃがんだ状態であったため、正確にはわからないがあーちゃんの見立てでは一七〇センチ代であるという。掛川はあくまでも参考程度にしか受け止めていなかった。
教室のドアは下に三センチの隙間が空いているという。トイレの個室みたいな感じであろう。その隙間を使ってやりとりをしていたという。暗いため、紙切れは何が書いているかわからない。紙幣の可能性もある。
紙切れが入れると封筒が教室から出てきた。封筒はかなり膨らんでいたようだ。三封を手にいれると廊下で交換した人物は立ち上がって何処かへ行ったという。
「二名のうち一名は内部の人間だね」
「はい」
「ちなみにそのやり取りをしていた教室ってどんな教室なの?」
「確か、コンピューター……デスクトップのパソコンが沢山あったと思います」
なんとなく、掛川の中には推理が出来上がっていく。やり取りを行っていた二人の目的は徐々に確信に近づいていた。ピースは揃っているが、まだ虫食いがある。完全にひっくり返せない状態にするには足りない。
「そういえば、私が一年生の頃にこの部屋にある一番古いノートパソコンにコンピューターウイルス付きのメールが送られていたって話題になりました。送っていた相手は当時在席していた学生のメールアドレスだったので疑いをかけられました。ですがその時間、その学生は図書館にいたのです。防犯カメラにしっかりと映っていました。証言は同じゼミ生や司書さんからも得ていまして。パソコンやスマホといった電子機器も操作していない」
「予約送信とか」
「いえ、送信されたメールは遠隔操作されたものと痕跡があったようですので」
掛川の推論は確信に変わっていた。
「そうか、わかったよ。犯人がわかった」
掛川の表情を読んで摩池庫は犯人を当てた。
「遠隔操作した人ですか」
「うん」
「遠隔操作の犯人……私はその人物に詳しくわかりませんが」
年齢やらを考えれば当たり前の話だろう。入学して一年の摩池庫が全ての学生を知っているとは到底思えない。
「確か三年生の
まさかの記憶力に掛川は驚愕であった。
「甲上が犯人だとわかれば。カケさん行きましょう」
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