第34話 蘭々はトイレの中

 僕の名前を四君子しくんしらん。今日、僕が所属するクラスで開かれるお姫様役さ。


 今、緊張のあまり旧校舎の男子トイレにお姫様衣装で隠れているんだ。


「はぁ~……なんで、こんな事になっちゃったんだろう。お姫様役だったら建宮君や真君の方が適任だと思うんだけどな~」


 幼馴染みの静華と元恋人の小春に、言われるがままに押し切られちゃったせいでとんでもない事になっちゃったよ。


「まぁ、台詞や演劇をするのから簡単だけど……相手役が午前中は静華ちゃん……午後からは元カノの小春……どんな地獄だい」


 今年の春。黎明高校に入学してから、色々な事があった。


 春には小春と恋人ではなく友達として1からやって行こうと言われて。


 夏には静華ちゃんと……


(蘭々……私。先輩にフラれちゃったみたいです。なぐさめてくれませんか?)

(えっと?……静華ちゃん。僕は……)

(蘭々……)


「夏休みに……あんな事があった後に……僕と静華ちゃんは熱海に逃避行して……毎日あんな事やそんな事で夏の思い出を。あーーー!! 違うよ。あの日々の思い出はーー!!」


 そう静華ちゃんと過ごした今年の夏は楽しい思い出で、純粋に幼馴染みと過ごして。来年の夏の多分……


「あー! 駄目駄目駄目!! 来年の夏の事なんて考えてたら駄目だって、僕!! なんで来年の事をそんなに楽しみにしてるのさ?………静華ちゃん。僕は……」



《旧校舎 男子トイレ》


 俺は蘭が隠れ潜んで居るであろう場所に、佐伯を連れてやって来た。


「男が隠れひそむ場所といえばトイレが定番だろう?」


「はぁ?」


「おい! なんだ。その、この人何を言ってるんでしょうね~? プ~クスクス~! みたいな顔は?」


 水色髪でもないくせに。何を馬鹿にしとるんだ? この金髪ギャルは?


「いえ、そんな顔はしてませんけど。建宮さん、考えすぎもはなはだしいです。蘭々の親友ポジションだからって、蘭々を知ったきでいないで下さい。私は蘭々の大切な幼馴染みなんですからね」


 佐伯にそんな事を言われながらキレられた。


 コイツは、どんだけ気が立ってんだよ。蘭の事になると本当に俺に当たりが強いよな。


 そんなに美少年の蘭と俺が学校で一緒に居るのが嫌なんだろうか?……どんだけ幼馴染みが大事なんだよ。


「おいおい。当たり強いぞ。佐伯……蘭のメイド姿の写真をただでやるから落ち着け」


 俺は制服のふところから蘭の写真を取り出して、佐伯に渡してやった。


 何故か入っていたんだ蘭のメイド服写真。何故かな。俺はなにも悪くない。


「な?! 建宮さん。そんな物を所持してるんですか? この野郎! ぜひぜひ下さい!」


「ぜひぜひ! やるよ。それでもって落ち着いてくれ」


「……いえ。吸いませんけど? 建宮さんは私をなんだと思っているんですか?」


「うちのクラスの多種多様な変人達をまとめあげる変人委員長」


「張り倒しますよ。建宮さん。もしくは美来ちゃんや藍さん達に建宮さんにセクハラされたと報告します」


「済まなかった。びに、蘭が体操服の着替えている時の写真をやるから許してくれ」


 俺は制服の懐から蘭の体操着姿が写った写真を佐伯に献上した。


「こ、これは?! し、仕方がありませんね。特別に許してあげましょう」


「マジか? サンキュー、流石、我等が変人クラスの委員長だな」


「建宮さん……ちなみに他にも蘭々の写真はお持ちで?」


「おう。まだまだあるぞ。俺が何かトラブルを起こした時に助けてくれたりしたら。佐伯をブチギレさせた時に使おうと思って、いつも制服に忍ばせてる」


「ほほう。それは良い行いですね……では、この文化祭で、建宮さんがピンチになった時には蘭々の写真を対価に私が助けてあげましょう。なので、先程頂いた写真よりもきわどい蘭々の写真を私にご提供下さいね?」


 ……コイツ、目がマジだ。どんだけ蘭の事が大切なんだよ?


「あ、あぁ、約束する。約束する」


 断ったら何をされるか分からないからな。ちゃんと従っておこう。


「ありがとうございます。頂いた写真は私が有効活用さて頂きますね~!」


「お、おう。大切に使ってやってくれ」


「はい!」


 どんな風に有効活用するのか気になるが触れないでおこう。お互いの関係の為にも。


 蘭の極めてハレンチな写真のお陰で、佐伯の機嫌も良くなったし。後は蘭を見つけて、クラスの演劇が始まる前に戻るだけなんだがな。


「しかし。蘭のヤツ……緊張するといつもトイレに引きこもり癖があるから。ここだと思ったんだけどな。俺の勘違いだったか?」


「あ! そうでしたね。蘭々は精神統一とか私に追いかけられた時は、いつもトイレに逃げ込んで打開策をトイレの中で考えますね」


 ……佐伯のヤツ。蘭とのプライベートの時、蘭に何をやってんだ? 


 まぁ、蘭が言うには、佐伯は見た目と違って奥手だから何も変な事は起きた事が1度もないとか残念がってたけど。


ガチャッ!


「ふぅ~!……色々とスッキリした。本番を頑張ろう!」


 そんな事を考えている間に。男子トイレの一番端いちばんはしの便所からお姫様姿の蘭が登場した。


「お! やっぱり居たな。蘭」

「蘭々ー! ここに居たんですか?」


 佐伯は、蘭を肉眼で確認すると同時に、獲物を見つけた雌のひょうの様な目で、蘭に飛びかかった。


「建宮君に静華ちゃん?! 何で君達が……ここに?! うわあぁぁ!! 何するのさ? 静華ちゃん! ちょっと!」

「蘭々! 色々とお話があるので、演劇前までお説教です! なんで最近、私から逃げ回っているのか説明して下さい! ほらほろ。おトイレの中でお説教です!」

「だ、駄目だって静華ちゃん! ここ男子トイレだよ? ちょっと! 静華ちゃん。何をやっているのさ?」


 あ~! 始まった。Aクラス名物。蘭と佐伯の夫婦漫才。ちなみに、このバージョンに一ノ瀬バージョンもしっかりある。


「あ~……クラスの劇が始まるまでには戻って来てくれよ。それじゃあ、俺は先に教室に戻ってるからお幸せにな。2人共~!」


 俺は手を振りながら男子トイレを後にする。この後の展開は、お若い2人で楽しんでもらってお邪魔虫はクールに去るぜ。


「ま、待ってよ! 建宮君! 助けてよ! 見て分からないの? 今の静華ちゃんは明らかに興奮してるんだよ? ちょっと! 静華ちゃん。どこを触ってるの? 耳ハムハムはここでは駄目だってば!」

「蘭々……勝手に私の前から居なくなった罰ですよ。お説教の始まりです。蘭々」

「お説教って……ここは男子トイレの中なんだよ。静華ちゃん!!」


ギィィ……ガチャッ!


 その後。男子トイレの中で、蘭と佐伯に何があったのか分からないが。


 2人共。顔を赤く染めながら教室に戻って来て。仲直りした様だった。そして、午前の劇を立派に演じきり。演劇を観に来た人達から盛大な拍手が送られていた。


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