第2話 ヤンキーギャルとリアル隠れ鬼
《旧校舎》
「ハァハァハァ……藍。この教室に隠れよう……あのヤンキーギャルから身を隠さないと……ハァハァハァ」
「………お姫様抱っこ恥ずかしい……かったぁ」
黎明高校の旧校舎の空き教室の一角に俺と藍は避難してきた。
それは何かって?……黎明高校のヤンキーギャル、
「建宮っち~! 藍ちゃ~ん! どこに隠れてるし~! 3人で一緒に帰ろうし~! さっきのは、あれはスキンシップじゃんよ~! 3人で付き合う酒池肉林とかも冗談だし~!」
遠くの方から七宮の声が聴こえて来る。
あの体育倉庫の出来事の後、俺は生徒指導部の先生を電話で呼び出して、事の経緯を一部を丸包み隠して伝えた。
不良グループの先輩達は起きなかった為、親御さんを学校まで呼び出し、迎えに来てもらうとか……そして、そのまま彼等がやろうとした事を伝えるらしい。
やった事がやった事なので後日退学になることは間違いないだろうと、生徒指導部の先生は言っていたな……
「……く……ん……ゆーくん」
「は?! あ、ああ、ごめん。藍、少し考え事をしてた」
「だ、大丈夫?……七宮さん。どんどん近付いて来てるけど。このままここにずっと隠れているの?」
藍が不安そうな顔で俺を見詰めている。七宮に見つかるのを恐れているのか? いや、見つかっても別に一緒に帰る羽目になるだけなんだけどな。
俺達が隠れているのは木造の校舎。小学生の時に観た学校の怪談に出てくる様な校舎だ。
放課後はだんだん日も落ちて来て、校舎内も暗くなり怖い雰囲気も出てくるから、臆病な藍だったら不安にもなるか。
「いや、隙を見つけて逃げるさ」
「そ、そうなんだ……良かった。ふぅ~」
なんで安心してんだろうか……旧校舎の雰囲気が怖くて、不安だったんじゃないのか?
「しかし……藍を助けようとしてくれたのは感謝してるけど。いきなりあんな事をされて、3人で付き合うとかぶっ飛んだ事言うヤンキーギャルとは、明日から少し距離よ。七宮は色々な意味で危険だ」
俺は自身の唇を抑えながそう告げる。アイツ~! 俺の初めてをよくも奪てくれて……
ガシャッ!
「「ひぃ?!」」
「あれ~? マジで建宮っちと藍ちゃん。居ないし~! どっかでパンパンしてんの~? そんなの校則違反だし。止めさせたろ~」
(パ、パンパ……んむぅ?!)
(静かにしろ。藍……七宮の奴。俺達の直ぐ隣、通路側に居るんだぞ)
木造の旧校舎は、教室と通路の幅が極めて狭い。俺と藍は今、教室の通路側に身を
七宮は俺達が隠れている居る場所の直ぐ近くに通路を挟んで居るのだろう。
通路側の窓から教室内を覗いているんだと思……ん?
俺が、ふと天井に顔上げると目があった。
ガシャッ……!
「建宮っち、藍ちゃ~ん! 見~つ~け~た!」
「うわぁぁ!」「ひ、ひぃ! 幽霊?!」
驚く俺と藍……いや当たり前か。
それは怪談映画の演出並みに怖い光景だった。ホラーだった。金髪ギャルが獲物を完全に追い詰めたギラついた眼で……捕食者の眼で俺と藍を見ていたのだから。
「……怖! じゃなくて、七宮?! 怖!」
「し、失礼だよ。ゆーくん……それよりも逃げなくて良いの? またマーキングされちゃうんじゃ?」
藍が俺の右手を掴んで立たせようとしている。そうだった、俺達。七宮から逃走中なんだった。
「そ、そうだな。七宮から逃げな……」
ガシッ!
「逃がさんし! ほらほら~! 建宮っち。ウチと仲深める為に皆で一緒に帰ろうし~! 早く早く~!」
俺は藍の右手を掴むと走り出そうとしたが、時すでに遅し……七宮は俺と藍の身体に抱き付くと身体を絡み付かせる様に密着させてきた。
「ひぃ?! 何してんだ! ギャルビッチがぁ!」
「な、七宮さん。なんで抱き付いて……」
「はぁー?! ウチ、これでもピッチピッチの処女ビッチだし! ふざけんなし。建宮っち」
「は? 七宮が処女ビッチ?……嘘だろう? あんなにいつも陽キャ達と遊び回ってる七宮が?……ごがぁ?!」
ペチペチペチペチ!!と七宮と藍が俺の頬を優しく叩き始めた。
「ふ、ふざけんなし!! 建宮っち! ウチは遊ぶ線引きくらいちゃんとするし。これでも成績は良い方なんだし~!」
「ゆ、ゆーくん。女の子にそんな言葉使っちゃ駄目なんだよぉ。大切な幼馴染みとして、お仕置きしてあげる……えいやい」
「や、止めろ。君達……なんで、俺にペチペチするのに意気投合したんだ!」
……リアル隠れ鬼で追いかけっこをしていた俺達3人だったが。この日は結局3人で一緒に帰ることになった。
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