世界最強のRTA走者だったが、転生先ではゆっくり暮らしたい。 〜いつもの癖で最適化をとってしまい負け確イベントをスキップしたら、知らない物語が始まった〜

藤野シン

第1話世界最速の男はゆっくりと歩きたい

 意識が遠のく中、白い光の中に「彼」は立っていた。

「……トラックに轢かれた、か。まぁ、天涯孤独だったし、悔いは……ない、かな」


 男――宮野アキトの脳裏に焼き付いていたのは、トラックの衝撃ではなく、直前まで配信していたゲームのタイマーだった。


 『世界最速記録、達成』。

 それが、彼が命を落とす直前に成し遂げた、人生最後の偉業だった。


 ――その時。

 どこからともなく、声が響く。


『アキトくん、こんにちは。僕は神だ』


「……神様? 思ってたよりカジュアルだな」


 目を開けると、白く輝く人影が立っていた。

 だが、服を着ていない。


「え、神様ってもっと金ピカのローブとか着てるもんじゃないの?」


『服は着ないさ。君たちが勝手に決めたルールに、わざわざ縛られる理由もないだろう?』


 まるで心を読まれたかのような返答に、アキトは思わず苦笑した。


「で、神様が僕に何の用ですか?」


 神は、申し訳なさそうに口を開く。


『それがね……君は、そこで死ぬ運命じゃなかったんだ』


「……え?」


『本来なら、君はもう少し長生きするはずだった。でも――ちょっとした手違いでね。

 人類史上初の“予定外の死”なんだよ、君は』


「いや、それ笑えないんですけど」


『神々で相談した結果、地球で生き返らせるのは世界が混乱するから無理。

 でも――別の世界なら、行かせることができる』


「別の世界?」


『君が一番プレイしたゲームの世界。そこに“招待”しようと思う』


 アキトの脳裏に、即座に一つのタイトルが浮かぶ。


「……Dragon Night。俺が世界最速を取ったゲームだ」


『それだね。じゃあ、そちらの世界へ――招待しよう』


 声が遠のく。

 視界が白に塗りつぶされ、次の瞬間。


 ――アキトは、森の中にいた。

 目を覚ますと、そこは――森の中だった。


 何百回、いや何万回も見た景色。

 ゲーム《Dragon Night》のスタート地点、「はじまりの森」。

 モニター越しではなく、自分の目で見ている。まるで夢のようだ。


「……マジか。これが“俺の世界最速クリア”を達成した世界、か」


 試しに、木の根に向かってヒップドロップをしてみる。

 ゲームではここで“魔王城の入口までワープできる”というバグがあった。


 ――が、失敗。

「……うおっ、尻いてぇ!」


 どうやら、この世界にはバグは存在しないらしい。


 そんなことを考えていると、前方から人影が近づいてくる。

 金髪の少女が、心配そうにこちらを見ていた。


「カムイ。早くおじさまのところに行きましょう。今日は収穫祭があるのよ」


 ――リゾット。

 ゲーム序盤で主人公の幼なじみとして登場する少女。

 そして、この後まもなく“死ぬ”運命にあるキャラクターだ。


 そう、この世界はダークファンタジー。

 収穫祭の日、村を襲う魔物の群れにより村人は焼かれ、主人公カムイは奴隷にされる。

 そこから、彼の旅が始まる――そんなストーリーを、俺は知っている。


「……まさか、自分がその“カムイ”だとはな」


 そんな時、耳を裂くような悲鳴が森に響いた。


「キャァッ! 助けて、カムイ! スライムが出たの!」


 ――チュートリアル戦闘だ。

 リゾットが木の剣を差し出してくる。


「カムイ、これを使って!」


「……よし、戦うか!」

俺は剣を振り下ろした。

 刃がスライムを真っ二つに裂き、黒い霧となって消えていく。


「……おお、意外と運動神経いいぞ、俺」

スライムを倒した瞬間、俺は自分の動きに驚いていた。

 現実では体育の授業でいつもビリ。握力も人並み以下。

 だが今の俺は、剣を振るうたびに空気を切り裂く感覚がある。


「身体能力……上がってる?」


 その後、残り二匹のスライムも難なく撃破。

 すると――目の前に透明なガラス板のようなモニターが現れた。


 ――経験値+75。ドロップアイテム:なし。所持金+20ゴールド。


「へぇ、こういう仕組みになってるのか」


 俺が感心していると、隣でリゾットが首をかしげた。


「カムイ? 一体どこを見てるの?」


「え、これ見えないのか?」


「何が?」


 画面を指さしてみるが、どうやら彼女には見えていないらしい。


(……なるほど。俺にしか見えない“システム表示”ってわけか)


 便利だけど、説明しようがない。

 まぁ、ありがたく使わせてもらおう。


 問題は――これからだ。


 このあと“はじまりの森”を抜けると、すぐに収穫祭イベントが始まる。

 そしてその夜、魔物の襲撃で村は焼け、主人公カムイは奴隷にされる。


「……せっかく転生したのに、奴隷ルートまっしぐらとか嫌すぎる」


 どうにかこのイベント、回避できないだろうか?

 俺は記憶をたどる。


「そういえば――レベル20くらい上げれば、あの魔物、普通に倒せるんだったな」


 ただし、倒しても画面が暗転して“全滅イベント”に強制される。

 いわゆる負けイベントってやつだ。


 でも……。


「やってみなきゃ、わからないよな」


 俺は木の剣を握り直した。

 目標はひとつ。――イベント破壊。

 最速で、最悪の未来をぶっ壊す。


「とりあえず、レベル上げだ」


 その瞬間、俺の中に燃えるような感覚が広がった。

 


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