第18話 姫のお披露目
第二章の冒頭に、姫目線の回をひとつ挿話してます。
二章以降における「アルベルトや姫のモチベーション」を補足する意図です。
リンクは以下からどうぞ!
https://kakuyomu.jp/works/822139839204709252/episodes/822139842747456347
―――
数え切れない大勢の言葉が、背景で飛び交っている。
王都に住まう民衆、王宮ないからやってきた貴族や役人、そして王都外から訪れた領主貴族たち。
立場の違いはあれど、こと今日においてこの建国記念広場に集まったみんなの目的は同じだ。
そう、それすなわち……アトラス王国建国の記念日に祝意を捧げること。
――僕が王都へ帰還し、再び姫と日常を過ごすようになって早一ヶ月ほど。
今日は僕も珍しく、宮廷魔術師としての正装を身にまとって、貴賓席にて式典開始を待っている。
うん。やっぱり今日の王都は、いつも以上に喧騒に満ちてるね。
「――パパ……」
「ん、どうかしまたか?」
広場に設けられた砦様の建築物――その両翼に備えられた貴賓席に座る僕は、隣から声を掛けられ目を向ける。
そこにいるのはもちろん――
「姫」
「……なにかあるって、いうわけじゃないんだけど。ほら、わたしも今日はさすがにちょっと緊張してて……」
「ああ……。そうですよね。姫、今日は大役ですもんね」
可愛らしく、しおらしく目を伏せる姫。緊張して不安そうな子どもみたい。
姫の様子を微笑ましく思いながら、なんと元気づけようかなと考えていたときだった。――僕の斜め後ろから、ちょっとハスキーな女性の声が。
「よくも緊張なんて言ったものだね、ボクはいま自分の耳を疑ったよ……。日々政治で辣腕を振るってる王女サマがこの程度で。どうせアルくんに甘えたいだけでしょ。というかパパって、それ本気で言ってたんだね……」
「……なにか、文句でも? スカーレット・クレイ師団長――」
「ああ二人とも、喧嘩せずに……」
この二人、なんだか相性最悪みたい。姫はいつでもスウさんを敵視してるし、逆もまた然り。というかスウさん、よく自国の王女に向かって啖呵切れるよね。
僕がこうやって仲裁したらひとまず喧嘩は収まるけど、正直キリがない……。
そう、眉根を垂らして困っていると――。
「ハハハ。まあそう気を揉み過ぎるなよ、アルベルト」
「マグワイアさん」
にやにや笑って声を掛けてきたのは、これまた僕の斜め後ろ――スウさんの隣に座ってるマグワイアさんだ。
「でもマグワイアさん、やっぱりこれ問題ですよ……。せっかくスウさんに頼み込んで姫派閥に入ってもらったのに、周囲から不仲とか思われたら……」
「まあそうだがな。……おっと、お二人さんは聞こえないふりだ」
「おぉ。なんて白々しい」
互いに顔を背けつつ、僕からも視線を外してる。絶対聞こえてますよね、二人とも。
……というか、この現状はほんとに良くないんですって。二人とも僕より大人だし、もうすこし見守ってれば落ち着くかと思いきやそんな様子もないし。
これ以上姫の派閥内がまとまってないって周囲に思われたら、僕が必死に姫の統治体制を固めようとしてる意味がなくなっちゃう。
「まあ、お前さんが気にするのも分かるがな。時には黙って見守るのだって男の甲斐性だ。それこそ――これ、アルベルトを巡る女の戦いだからなっ。くぅ、わくわくするなぁ……! 王女と女騎士がお前さんを取り合うなんて」
「そういうのじゃありませんからマグワイアさん……。僕みたいなちんちくりん」
「パパはちんちくりんじゃないわっ。たしかに体は男の人にしたらその、ちょっと小さいかもしれないけど……でもっ、その心はね! わたしを利害関係なく包み込んでくれる、あたたかい陽だまりみたいな――。あといい匂いがして……撫でてほしい……よりかかりたい……」
うっとりと目尻を垂らし、甘えるように僕の膝に手を置く姫。
ちょっと距離はあれど僕たち以外の貴族もいますからね? 気をつけて……。
「――な? 女にはむしろお前さんみたいに華奢で王子様みたいなのが好かれるんだ。ギャップがあるのもいい。俺は知っている」
マグワイアさんがしたり顔で頷く。
というか、ほんとにそういうこと言うのはダメなんですって。ただでさえ妙な噂――権力者をたぶらかす魔性の少年がどうとかって話が出回り始めてるんですから。
そんな噂これ以上広まったら姫派閥の信用や結束が……。それこそ今からやろうとしてることだって、姫の権力基盤を安定化させる狙いがあるのに、こういうちっちゃいとこでケチがついたら困るんだから。
そう、マグワイアさんにちょっと反論しようとした、その時だった。
広場に響き渡る拡声魔術による声――。
「――アトラスの民たちよ」
これは、陛下の声。とうとう式典が始まったみたい。
僕たちは会話をやめて、豪奢な砦様の建築物中央、そのひときわ高い壇上を見る。
「今日は、このアトラス王国の建国二二〇年記念日である。偉大な初代アトラス王より連なる九代目国王として、健やかなる国民の皆とこの日をともに迎えられたこと、うれしく思う――」
滔々と話す陛下からは、以前僕らがボコボコにしたときの様子なんて微塵も感じられない。恥を知らないのか何なのか、いやに威風堂々としてて……。
「パパ……。気持ちは分かるけど、その……ちょっと威圧感が」
「えっ。そんなつもりは……いや、姫が言うならそうなんでしょうね。すみません」
確かに言われてみれば、たまに陛下がこっちを見て顔を青くしてる気がする。うーん、彼のことなんてもう気にしてないつもりだったんだけども。
とはいえ。姫はこのあと陛下とも言葉を交わすことになるし、できるかぎりスムーズにことが運ぶように、ね。
そうして。柔らかい雰囲気を出すよう意識し、陛下の調子が戻ったことを確認してからしばらく。
陛下は初めの挨拶から建国記念を祝う号令まで、国王としてつつがなく式典を進行し。
そして。
とうとう、その時が。
「――では。私の話は、いったんここまでとして。次は」
陛下がこっちに顔を向ける。その表情は非常に厳かで、ほんのわずかに引きつっていることを除けば……まあ、一見立派そうに見えた。
そんな、国民の前で必死に王の威厳を保とうとする陛下は、僕たちに向かって言った――。
「我が娘……そして、政務全権代行官であるキルリエラ・アトラスよ。ここからの祝辞は――君に引き継いでもらう」
「ええ、承りました」
そう言って立ちあがる姫。次いで、マグワイアさんとスウさん、そして……遺憾ながら僕も立ちあがる。
中央の壇上を挟む両翼の貴賓席で、貴族たちに大きなざわめきが広がった。
「ど、どういうことだ。なぜ王太子殿下ではなく王女殿下が」
「知らないのか? いま王女殿下は、宮廷で政治の全権を握っておられる……」
「だがしかし、こうもはっきりと。やはり陛下は次代の王を王女殿下に……?」
いまこの場には地方領主たちも参列してるからね。王宮政治をリアルタイムに把握してない者もいるだろうから。
それに、王宮にいるからって全部を正確に把握できてる人なんてきっといない。一連の動乱の件、ほんとに色んな話が錯綜してるんだよね。
例えば、姫は以前から権力の座を狙っていただとか。後ろで糸を引き王宮を支配しようとする黒幕がいるのだとか。
……あと大穴として語られてるのは、そういった野心は関係なく、色ボケ姫の単なる暴走、みたいな。
「――おい見ろ、あの小姓のような少年魔術師を……! やはりあの噂は本当なのか?」
おお、今まさにその話が。これ実は語られてる中で一番真実に近いとは誰も思わないだろうね。
僕は姫に続いて中央の壇上へ歩みを進めながら乾いた笑みを浮かべる。
それとあとは……貴族だけじゃなく、広場に集まった国民たちも同じく動揺してる。慣習的には、直系男子が王位を継ぐのが普通だからね。もちろん長い歴史の中で例外はあれど。
ただ。姫に次いでみんなの注目を集める、肝心の王太子殿下本人はと言えば――。
……うん。さっきまで僕らがいたのと反対の貴賓席で、涼しい顔して座ってる。やっぱり彼は、王位なんてどうでも良さそうだね。
と、そう周囲の様子を観察しながら。僕は姫の後に続き、壇上の中央でスウさん、マグワイアさんと並んで姫の後ろに立った。
よし、じゃあ。拡声魔術を。
「姫。準備できました」
僕がそう小声で伝えると、姫は前を向いたまま頷きを返し。
そして。
「みなさん。陛下より挨拶を引き継ぎます、アトラス王国第一王女―――――――キルリエラ・アトラスです」
凛と響くその声に。
ざわついていた聴衆が、しんと静まり返った。
うん。掴みはバッチリ。
元から天才の名をほしいままにしてた姫だけど、その容姿、立ち振る舞いから常人離れしてる。こうして雰囲気を作って話し始めるだけで、誰しもがその空気感に引き込まれる。
姫は続ける。
「さて。それではこの国が辿ってきた歴史に祝いの言葉を……といきたいところですけど。おそらくみなさん、それよりも気になっていることでしょう。――なぜこの場に立つのが王太子でなく私なのか、と」
みんなまさに気になってたことを自分からはっきり口にする。そんな姫の話術に聴衆の意識は釘付けだ。
そして。姫は少しの間口を閉じ、十分に聴衆の反応を確認して。
「いま。その理由の一端をお見せしましょう」
その瞳を妖しく光らせると、告げた――。
「【星天】――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます