陳勝転生 秦の貧農は異世界の労働者に転生するが、またも煽る
茶電子素
第1話 笑って死ねるなら悪くない
陳 勝(ちん しょう、Chén Shèng、? - 紀元前208年)は、
秦代末期の反乱指導者。
張楚の君主。
劉邦や項羽に先んじて呉広とともに秦に対する反乱を起こしたが、
秦の討伐軍に攻められて敗死した。字が渉。諡号は隠王。
──『Wikipedia』より引用 ──
陳勝は目を覚ました。
目の前に広がるのは、見慣れぬ空。
秦の時代の土埃にまみれた戦場ではない。
代わりに、やけにカラフルな看板が並び、
道端では奇妙な生き物が野菜を売っている。
いわゆる異世界転生というやつだ。
とはいえ、
本人はそんなこととはつゆ知らず、
「秦ではうまくやれなかった」という事実だけを忘れられないでいた。
あの時は、志を掲げたものの、
仲間に裏切られ、自業自得も重なって夢半ばで散った。
(だが今度は違う!)
ここで、もう一度やり直してやるぞと意気込んでいた。
ただし、スタート地点はやはり最底辺だった。
前世を思い出した陳勝ではあったが、
今は村の端にある小屋で「日雇い労働者」として扱われていた。
仕事はひたすら荷物運び。
報酬はパン一切れ。しかもパンは固く、歯が欠けそうになるほどだ。
そんな彼のことを村人たちは「よそ者」と呼び、冷たい視線を送る。
だが陳勝は笑った。
「よそ者?結構じゃないか。よそ者だからって縮こまっていたら何も始まらねえ」
彼の武器は剣でも槍でもない。
秦の時代でも、民衆を煽って蜂起させた。
失敗はしたが、煽りの才能そのものは確かだった。
異世界でもそれは通用するはず──。
まずは労働仲間に声をかける。
「おい、パン一切れで満足か?歯が折れそうなパンを食って、明日も荷物運びか?俺たち犬だったか?」
その言葉に、仲間たちは苦笑する。
だが心の奥で、確かに不満を抱えていた。
陳勝はそれを見逃さない。
「俺たちが立ち上がれば、パンを二切れにできるかもしれんぞ!」と、
半分冗談のように叫べば笑いが起きる。だがその笑いは、やがて熱を帯びる。
村の広場で、陳勝はさらに煽る。
「偉い連中は俺たちを笑っている!だが笑い返してやろうじゃないか!」
聴衆は笑いながら拍手した。
笑いと怒りが混ざり合い、奇妙な熱狂が生まれる。
これが彼の狙いだった。
反乱の火種は、怒りだけでは燃えない。
笑いを混ぜることで、誰もが気軽に参加できる。
そうして気づけば、
広場には“反乱ごっこ”を始める者たちが集まっていた。
木の棒を振り回し、権力者の真似をして倒れる寸劇を演じる。
陳勝はその中心で、豪快に笑った。
(よし、まずは遊びからだ。遊びが本気になるのは、時間の問題だ)
その夜、村の酒場で仲間たちが集まった。
労働者の一人が言う。
「お前、本気で反乱を起こすつもりか?」
陳勝はパンをかじりながら答える。
「本気も何も、俺は失敗した男だ。もう一度失敗しても構わん。だが、笑って死ねるなら、なおのこと悪くない」
その言葉に、場は静まり返った。
やがて一人が笑い出し、次々に笑いが広がる。
笑いながら涙を流す者もいた。
彼らは不遇な生活に慣れすぎていた。
だが、笑いと涙の中で、確かに心が動いていた。
翌朝、村の権力者が広場に現れた。
反乱ごっこをしていた村人を見て怒鳴る。
「何をしている!さっさと仕事に戻れ!」
だが彼らは笑いながら答えた。
「戻るのはパン一切れの生活か?俺たちはもう戻らん!」
権力者は顔を真っ赤にして怒ったが、群衆の勢いには勝てない。
陳勝は前に出て、豪快に叫んだ。
「俺たちは犬じゃない!俺たちは人間だ!笑いながら──泣きながら立ち上がる人間だ!」
その瞬間、群衆は一斉に声を上げた。
反乱は、遊びから現実へと変わりつつあるのかもしれない──。
こうして、異世界での陳勝の第二の挑戦が始まった。
今度も最底辺からの出発だが、彼は気にしない。
やれることといえば、煽って煽って煽りまくって奮い立たせるだけ。
笑いと怒りを混ぜ合わせた反乱の機運は、片田舎の村で確実に高まっていた。
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