異界送りのシャルロット ~破滅を望んだ悪女は、異界の王に愛される~

足軽もののふ

第1話 異界送りのシャルロット

「大罪人シャルロット・ダークロウズの異界送りを執行する」



 切り立った崖に囲まれた処刑場に、刑の執行を告げる声が響く。

 大罪人と呼ばれた女――シャルロットの目の前には門がある。

 ブロンズ製の重厚感に満ちた門は見上げる程に大きい。

 門は岩壁に埋まるようにして設置され、両開きの扉を固く閉じていた。


 この門の先は、異界と呼ばれる別世界に繋がっている。


 異界とは、現世には存在しない異形の怪物が住まう世界のことである。

 三百年ほど前までは現世と異界は繋がっており、大陸には怪物の姿があった。

 怪物一体を倒すために、人類は多くの犠牲を払わざるを得なかった。

 これを憂いた当代きっての錬金術士と魔道士が手を組み、現世と異界を分かつ門を作り上げたと言われている。


 死をもってしても償えない大罪を犯した者は、この門より異界へ送られる。

 通行は一方通行、現世から異界へ赴くことは可能だが、その逆は不可能とされている。

 現に今日まで異界から戻ってきた者はおらず、未知の領域に放り込まれるのは死刑よりも尚恐ろしい罰であると言っても過言では無かった。

 

 華奢な体を質素な黒のドレスで包んだシャルロットは、門の威圧感をものともせずに微笑みを浮かべていた。

 団子状に纏められた艶やかな金糸の髪に、紅玉の瞳の気高さは大罪人と呼ばれるには似つかわしくない様相である。 

 しかしシャルロットはまごうことなき大罪人であった。



 この大陸全土の支配者たる、ティタノ帝国第十一代皇帝アルカイオスⅢ世の殺害を企てたのだから。



 轟、と重たい音を立て門扉が開く。

 ゆっくりと開く扉の隙間から、禍々しい赤黒い光が漏れだした。

 門の向こう側、異界から放たれる光である。

 見る者すべてが恐怖に震える中、シャルロットだけは微笑んだままでいた。

 堂々とした足取りで歩き出し、一切の躊躇もなく門へ向かい歩み出す。


「征くが良い、シャルロット」


 投げ掛けられた男の声に、シャルロットの足が止まる。

 振り向いたシャルロットは、両脇に兵士を従えた男に向けて一礼した。


 日に焼けたような褐色の肌に、後ろへ撫でつけられた濡羽色の髪。まるで太陽を溶かした黄金色の瞳を持つこの男こそが、帝国現皇帝アルカイオスⅢ世であった。


「行ってまいります、皇帝陛下」


 そのシャルロットの美しい所作に、アルカイオスは満足げに笑む。

 顔色一つ変えぬまま、再びアルカイオスに背を向けたシャルロットは異界へ向けて踏み出すのだった。

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