・ランダム商法(強い悪意の香り)

「ランダム商法」という言葉がある。

あるグッズについて、そのバリエーションや中身を購入者が事前に選べない仕組み(ブラインド仕様)が採用された販売形式である。

その是非は脇に置いておいて(どうでもいいが、この連載はつねに物事の是非を脇に置きがちである)、この「ランダム商法」という言葉が以前から引っ掛かっていた。


まず前提として、ランダム商法はたいていの場合批判されがちだという事実がある。


2025年10月、人気作品『ちいかわ』のキャラクターグッズについて、全6種あるぬいぐるみがブラインド仕様で販売される予定だったが、消費者からの批判の声が殺到し、全6体が揃ったコンプリートボックスの受注生産へと販売方法が切り替えられた。

1体あたりの販売価格が2420円と比較的高額であり、1会計2体までの購入制限もあって「かぶり」を懸念するのは当然の消費者心理である。

また転売問題も解決しない中、それを助長するようなランダム商法はつねに批判の的となっている。


直近の事例を挙げてみたが、今回の話はこの「ランダム商法」という言葉そのものについて。

この言葉、「ランダム」ではなく「商法」の方に悪意のウエイトがある。


「ランダム販売」でも「ランダム仕様」でもなく、「ランダム商法」。


「商法」という言葉の持ついかがわしさ、怪しさ、強い悪意の香り。

たとえば「マルチ商法」、「点検商法」、「先物取引商法」、「霊感商法」など、いわゆる「悪質商法」には枚挙にいとまがない。

だが「商法」という言葉を『広辞苑』で引いてみると、「あきないのしかた」とある。「商法」自体にネガティブな意味があるわけではないのだ。


つまりこれら悪質な詐取行為についてつねに「商法」という言葉が使われてきた。

そしてその積み重ねが、「商法」という言葉自体に強い悪意の香りを染みこませた。

だから消費者は、ブラインド仕様による販売方法を「搾取されている」ととらえ、「ランダム商法」と呼ぶ。


これが「ランダム商法」という言葉の成り立ちについての一考察である。

そしてこのような、強い悪意の香りが染みついてしまった日本語というのは、探してみれば色々あるように思う。


たとえば「やり口」。

「やり方」と「やり口」という言葉、それぞれの違いをどこに認めるかといえば、多くの人が後者について、何か不正をしていたり、公正でない方法を取っていると感じるのではないだろうか。

「手口」という言葉の影響もあり、「やり口」はつねに悪印象のイメージで使われるため、強い悪意の香りがべったりとこびりついている。


「計算高い」はどうだろうか。

「損得に関して敏感である」という意味合いだが、「あの人は計算高い」と聞くと、ずる賢さや自己中心的なイメージが浮かぶ。

「計算高い」という言葉の構成要素自体にネガティブなものは一切含まれていない。にもかかわらず、「計算高い」という言葉はマイナスに使われがちであり、またマイナスに響きがちである。


「連中」も似たような言葉ではないか。

たとえば自分の仲間について、「連中とは組んでから長いんだ」など親しみを込めて使われる場合もある。

しかし、「あの連中とは付き合うな」とか「深夜にうるさい連中がいる」など、ネガティブイメージのある特定の集団に対して使われる言葉でもある。

「連中」それ自体は「つれ」とか「仲間の人々」という意味でしかないのだが、負のイメージを持った言葉としても定着している。



「ランダム商法」を、人は「計算高い連中のやり口」と解していると言って良い。

これらの言葉から漂う悪意の香りは、まったく同じものである。

「なんか悪そうで怖い言葉」。そんな言葉が選ばれ、使われている。


このような意味の変遷をたどってきたものとして最も代表的かつアクロバティックな実例は「貴様」だろう。

「貴様」はもともと敬意を表す二人称だったが、近世中期以降、庶民が使い始めるにつれてその敬意は消失してゆき、やがて相手を罵る言葉へと変貌した。

敬語から罵倒語へ。絵にかいたような失墜である。


無臭だった「商法」という言葉は、今やすでに強い悪意の香りを伴っており、やがて完全なるヴィランへ堕してゆくように思う。

そのころには転売問題が解決しているだろうか。

そして強い批判を浴びる「ランダム商法」はその形を保っているだろうか。



貴様はどう思いますか?




記すするトレーニング


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る