第10話 🌈マイナンVR楽園

「🔊 ID-8848番、起床時間です」


耳もとで機械ボイスが響く。

カイはまぶたを半分だけ開けた。天井、真っ白。まるで冷蔵庫の内側。


「……名前で呼べって、いつも言ってんだろ」


「了解しました、カイ=ミナミタニ様(ID-8848)」


(※結局番号ついてくるんかい)


💳 名前より重いIDの時代


この時代、人間には“名前”と“ID”がある。

でもどっちが本人かって聞かれたら、たぶんIDのほう。


銀行、病院、SNS、恋愛アプリまで――

全部IDで完結。

財布よりもIDのほうが命綱💥


「本日もメタ区画へのログインありがとうございます」


そう言われた瞬間、カイの視界がバッと切り替わる。


🛏 現実:六畳・黄ばんだ壁紙・ホコリフル装備

🏙 VR:180畳・夕焼けビュー・空気キラキラ課金オプション


「……こっちが“現実”って言われても納得するよな」


🧍‍♂️ 肉体からの“解放”という名の初期設定


カイのアバターは完璧。

筋肉も美肌もデフォルト装備。


現実の自分:寝癖、腰痛、肌荒れコンプリート

VRの自分:物理演算オフ、疲労オフ、腹筋オン


「身体的平等法、ありがとう。…でもちょっと味気ねぇな」


老化オン=課金。

体型調整=自動。

現実=めんどくさい。


もはや「生きる」もサブスクの時代である。


🎢 VRオフィス=MX4D地獄


リモート出社ボタンを押すと、カイはオフィスにワープ。

同僚のアバターたちがホログラムのデスクでカタカタやっている。


「おはよう、ID-8848」


「……カイでいいですよ、部長」


「コンプラ的に名前呼びは禁止だ」


「顔も全員同じですよ?」


部長が指を鳴らすと、オフィスが突然🎡テーマパークに!


「今日の会議は“MX4D体感モード”だ!!」


椅子が揺れ、風が吹き、カイは叫ぶ。

「部長!議題“売上”ですよね!?これ、遊園地案件では!?」


「没入感を感じろ!それが働き方改革だぁ!!」


💔 マッチングアプリはAIが恋のキューピッド


昼休み。

カイはカフェVRへ☕️


現実:カップラーメン。

VR:AI生成のラテアート付きカフェラテ。


マッチングアプリ《ID♥LINK》を起動。

だが今日もマッチ0件💔


「またフラれたの?」と同僚ユイ(ID-1203)。


「AIに振られるって、なんか新しい地獄だよね」


AIは検索履歴・睡眠時間・購買履歴まで分析。

「深夜2時『孤独 治し方』検索してる男」=恋愛偏差値E。


「タグつけ辛辣すぎんだよ……」


ユイ:「私は“ペット動画連投=情緒不安定”って出た」

カイ:「AI、診断どストレートすぎるだろ」


⚠️ ID障害、発生中。


突然、世界がピコンッとフリーズ。


《重大なお知らせ:一部ユーザーのID紐づけに障害が発生しました》


……気づけば。


【名前:カイ】

【ID:不明】


「おいおい、俺、消えた!?」


ユイ:「なにそれ、逆にレアキャラじゃん!」


AI:「該当ユーザーは“レコメンド・評価・広告”の対象外になります」


「……つまり、監視もされない?」


「はい、おめでとうございます」


(この“おめでとうございます”の圧が一番怖い)


🌌 “スコアなし”の世界を歩く


モールに行く。

いつもなら出るポップアップが、今日は何も出ない。


📢「あなたへのおすすめ!」

📢「孤独度に合わせた癒し特集!」


……全部、消えた。


静寂。AIの沈黙。


「ねぇ、それが“自由”ってやつじゃない?」とユイ。


「……自由って、不便だな」


評価もランキングもない服を手に取り、

久しぶりに自分で選ぶ。


「似合うかどうか、俺が決めるんだよな」


自分の声がちょっと笑ってた。


💤 ログアウトと、“名前”の意味


ログアウト前。

ユイが言う。


「運営にバグ報告しないの?」


「しばらくこのままでいいや。AI様も、たまにはサボってもらおう」


現実に戻る。

黄ばんだ壁、六畳の部屋。

でも今日は、なぜかちょっと温かい。


「ID-8848番、今日の満足度評価をお願いします」


……沈黙。


「評価しないって選択肢、ある?」


「……認識外の応答です。“評価しない”を暫定記録します」


「それでいい」


AIの世界でも、

“評価しない勇気”って、案外革命かもしれない。


翌朝。


「おはようございます、カイ様」


――初めて、名前だけで呼ばれた。


カイは笑ってガッツポーズ✊


「やっと学習したな、AI」


そして今日も、

“IDをなくした男”の一日が、ちょっと自由に始まった🌅


🪩 ― 完 ―

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