二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした
当麻 月菜
第1話 そうね、わたくしも”そこそこ”楽しかったわ
人の心を傷付けたのに、どうして罪に問われないのだろう。
人のモノを奪ったのに、どうして罪に問われないのだろう。
泣くことすらできないほど心をめった刺しにされたのだから、これは立派な傷害罪だというのに。
婚約者を奪われたのだから、これは立派な窃盗罪だというのに。
なのに、どうして「ごめんなさい」の一言で片付けられるのだろう。
「仕方が無い」という一言で諦められると信じ切っているのだろう。
恋を、愛を、未来を、奪われた人間がここに──目の前にいるというのに、どうして笑っていられるのだろう。
私は、貴方たちにとってその程度の人間なのでしょうか?
貴方達は、私には心が無いとでも思っているのでしょうか?
どうか教えてください。
私が納得できるまで、私の質問に答え続けてください。
──私の人を信じる心まで、奪わないでください。
(……そう言えたなら、どれだけ楽になるかしら)
フェルベラ・ウィステリアは、目の前にいる家族と婚約者──いや、もう元婚約者と呼ぶべき相手に向け、そう目で訴える。
しかし、ここに居る誰もが、フェルベラの血を吐くような訴えに気づかない。
「──そういうことだからフェルベラ、もういいな?ロジャード殿だって忙しい身なんだ。あまり困らせるな」
「そうですわよ、フェルベラ。もう決まったことなの。ワガママはおよしなさい。見苦しいわ」
悲愴な顔で立ちすくむフェルベラを、彼女の両親は無言の抵抗だと受け取った。そして、心底うんざりした表情を作って嗜める。
しかし視線を別のところに移したフェルベラの両親は、柔らかな笑みを浮かべた。
「さあ、シャーリー。話は終わったのだから、ロジャード殿をお見送りしてきなさい。あと──ロジャード殿、お手を煩わせました。ですが、これからもどうぞよろしく」
「ふつつかな娘でありますが、どうぞ末永くよろしくお願いしますわね。ああ。シャーリー、まだ外は寒いのだからきちんとショールを羽織るのよ」
つい今しがた、鋭利な刃物のような言葉を長女に向けたことなど忘れたかのように、次女シャーリーに慈愛のこもった眼差しと言葉を送る。
すぐ傍にフェルベラがいるというのに。
彼女の両親は、もうフェルベラを見ていない。
かつてフェルベラの先祖は、私財を売り払い、孤児の為の学び舎を建設した。そのことを国王から高い評価を受け、ウィステリアという家名と共に伯爵位を賜った。
ウィステリアは花の名前。薄紫色の春の終わりに咲く【優しさ】という花言葉を持つ綺麗な花。
でもその家名を持つ人間は、ちっとも優しくなんかない。
そして、その家名を持つ者を婚約者にする男も。
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。まぁ……少々、手違いがありましたが、互いにこの件はなかったことにして、今後とも変わらぬ関係でいましょう」
公爵家嫡男であるロジャード・エリドは、次期当主らしい堂々とした口ぶりだった。
その隣に居るシャーリーは、正式に婚約者になったばかりの彼を、うっとりと見つめている。
ロジャードと婚約したのはフェルベラが12歳になった春。それから6年。ずっとずっと彼に相応しい女性になる為、血の滲むような努力を重ねてきた。
けれど、妹のシャーリーはたった半年で彼の心の全てを奪った。
半年?……いや、一瞬だったのかもしれない。あの日、何気なく誘ったお茶の席で、ロジャードはシャーリーばかりを見ていたのだから。
シャーリーはフェルベラの2つ年下の16歳。波打つ金髪に、秋の空のような澄んだ青色の瞳。誰もが人形のようだと、褒め称える容姿を持っている。
対してフェルベラは、枯葉のような茶金色の髪に、くすんだ緑色の瞳。細すぎる体形はまるでホウキみたいだと誰かが言っていた。
あの日の茶席では、自分はシャーリーの引き立て役でしかなかったのだ。
そう気付いていながら、見ないフリをした。6年という彼と過ごした時間を信じた。
その結果がこれだなんて……なんて愚かな末路なのだろう。
フェルベラは、幸せそうに微笑む元婚約者と妹を見ながら自嘲する。本当は今すぐ泣き崩れたいのに。
でも、ロジャードの瞳に最後に映る自分は奇麗でありたいという、ちっぽけなプライドが邪魔してできないのだ。
それなのにロジャードは、最後の最後までフェルベラの心を蔑ろにした。
暇を告げ扉に向かう途中、フェルベラに向けてこう言った。
「ああ、フェルベラまだ居たんだ。じゃあ一応伝えておくけど、君との婚約期間は
取ってつけたような、それでいて何の罪悪感も覚えていないその台詞に、フェルベラはプツンと何かがキレた。
「へぇ、そう」
淑女の鑑のようだった自分の口から到底吐くはずの無い台詞を口にして、フェルベラはスカートの裾をむんずと掴むとロジャードに駆け寄った。
そして、何事だと怯えるロジャードにめがけて──渾身の回し蹴りをお見舞いした。
「そうね、ロジャード。わたくしも
死んだカエルのように床に突っ伏した元婚約者の背中をピンヒールで踏みつけて、フェルベラは颯爽とサロンを去っていった。
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