第5話 避難
二人が中央広場に戻る頃には、住人は全員集まっていた。
これが例年通りの避難の状態なのだろう。確かに多少の揺れならば、この広い空間で座っていれば、人的被害はほぼないという状況が作れそうだ。しかし、今回はそうはいかないというのに――
「何で皆さん全然逃げようとしてないんですか!」
ルピナが叫ぶ。
広場で座り込んで談笑するもの。
お弁当を広げて食べる家族。
中には酒盛りを始めてしまっている大人たちまで。
「伝統の持つ強制力というものの凄さが、これ程とは……」
「いや、多分国民性みたいなのもあるんじゃないですか? あれだけ山で煙が上がっているのに」
「凄いね! 今年はのろしの演出もあるのかい」
「野焼きじゃないのか? 何にせよ目出たいじゃないか」
とんでもない会話が住民の間から聞こえてくる。
「どれだけ失敗なんですか、この災害を楽しいイベントとして残す伝統は」
「状況にもよるのだろう。伝統というものは、そうやって美しくなっていく」
「その前に滅んじゃったら困りますから、感動は程ほどに行動しましょう」
とはいえ、この状況でこれだけの人数をどうすればいいのか。
「ルピナ君。ここはひとつ、時間稼ぎを頼んでいいかい」
ローデンが提案してくる。
その口調は、珍しく真剣な色合いが濃いめだ。
「私の魅了で一人ずつ山と反対方向へと移動させる」
「えっ! この人数をですか? さすがに先生でも無理ですよ」
ヴァンパイアの魅了は相手の目を見て操る。
先生の技術なら魔力抵抗のない人間なんか一瞬で支配下に置けるが、それでもこの人数はどれだけかかるかわからない。
「なに。何人か逃げ始めれば、不安を感じたものから後を追い始める。人の習性だよ」
「なるほど。ってことは、私は……」
「溶岩の流れを変えて、少しでもここに到達する時間を遅らせて欲しい。もちろん、方法は問わない」
(それはつまり、そういうことだ!)
ニッコリと笑うルピナ。
「任せてください! いっそ、流れを完全に堰き止めて、町の被害そのものをなくしてやりますよ」
「いつも通り、無理だけはしないようにね」
二人は別れる。
ローデンは、中央広場の中へ。
ルピナは山に向かって走り出した。
§
ルピナは町を出てから、できるだけ山と町の間の地形を把握しながら移動した。
結果わかってきたのは、この任務がなかなかに難しいと予想されることだった。
「まずいなー。堰き止められそうな箇所、そんなにないじゃん」
見た感じ二か所。
しかも、どちらもできるのは時間稼ぎで、遅かれ早かれ町に流れ込む気がする。
「まあ、やるだけやって後は先生任せでいいよね」
そう言って、まずは最初の候補地を目指して森の中へと足を踏み入れた。
森の中は既に煙が満ちつつあり、視界がかなり悪かった。
足元も荒れていて、思うように進めない。
前方からは熱を持った風が吹きつけてきて、溶岩がそう遠くないところまで来ているのを感じさせた。
と、その時――
「うわぁ!」
シカのような大型の生き物が走ってきたのを、間一髪のところで避ける。
「あ、危なかった……。でも、こういう場合って?」
ルピナがゆっくりと顔を上げると、危惧したとおり白煙の中から次々と様々な動物が飛び出してきた。
「やっぱりきたぁぁぁ!」
踵を返して逃げようとするが……荒れた地面に足を取られて、お約束のように転ぶルピナ。
その上を、何だかわからない大型動物が飛び越えていく。
「ひいいいいいい!」
ルピナは身体を丸めた。
とにかく小さく小さく丸めた。
そして祈る。
「かみさまかみさまかみさま、爆破の神様。御慈悲を!」
神罰がくだっているわけじゃないので、慈悲の意味はあまりないのかもしれないが、祈りは本気だ。
そして、その願いが届いたのか――
「ぐぇっ!」
脇腹に狸くらいの動物が一匹体当たりしただけで、動物の津波は避けることができた。
ゆらりと立ち上がるルピナ。
「ふ、不幸だ……」
どうしてこうも酷い目に遭うのだろうか。
恨み言や泣き言。きっと言いたいことは多々あるだろう。
しかし、それでも彼女は立ち上がった。
強く、強くこぶしを握り締め……
「今回こそは、絶対特別ボーナスゲットしてやるぅ!」
そして、再び走り出す。
意外とまだ余力はあるようだった。
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