第8話 爆発

(……うぉぉぉぉぉぉ!)


(……お願い! お金のために!)


(……ブラボー!)


 バッシャァァァン!


 遠くで何かが海へ落ちた音がした。

 だが、ルピナの意識は柔らかな綿に包まれたようにぼやけている。

 お尻の下には、何か固い板のような感触。


「……んぅ?」


 潮風が頬を撫でる。

 ルピナがのっそりと目を開けると、見晴らしの良い景色が目に入ってきた。

 何だかやけに視界が高い。そして不安定だ。


「あれ? ここは……」


「おぉ、ルピナ君。お目覚めかね?」


 足元から、やけに嬉しそうなローデンの声が聞こえる。

 見下ろすと、彼は親指を立てて満面の笑みを浮かべていた。


「先生? なんで私、こんな高い所に……?」


「いやぁ、ガレン君の飛翔は素晴らしかったが、やはり『画』としては惜しかった。ルピナ君の懸念がようやく理解できたよ」


「そうですかー」


 まだ頭が働かないため、適当に相槌を打つ。


「そこで、急遽村長に頼み込んでね。エキシビション枠を追加してもらったのだよ」


「えきしびじょん?」


 脳内に濃霧がかかっている。意味が理解できない。


「ルピナ君には、カメラを持って飛んでもらいたい。なに、我々は頑丈だ。海に落ちれば怪我もしないさ」


「はぁ、なるほど。海なら平気ですねー」


 ルピナは了解とばかりに頷き、投石器の上にしっかりと座りなおす。

 さらに習慣とは恐ろしいもので、無意識にカメラの画角調整を始めた。

 ファインダー越しに青い空が見える。


「では、カウントダウンいくぞ!」


 村人たちが盛り上がり、声を合わせる。


 5、4……


(……この空、さっき見たなぁ)


 3、2……


(何か足りないって思って……何か足そうとして……)


 1……


(――高度感知式の魔導爆薬!?)


 ルピナの目がカッと開く。

 血が逆流するような悪寒。

 今、自分のポーチの中には何が入っている?


 上空で炸裂するようセットされた爆薬だ!


 そして自分は今、空へと射出されようとしているのだ。


「せ、せん、せい! 待っ――!!!」


 バシュッ!


 ルピナの言葉は、発射の衝撃で喉の奥に押し戻された。


「いやぁぁぁあああぁぁぁ!!」


 物理的に遠ざかっていく悲鳴。

 小柄で軽量なルピナの体は、投石器の性能を遺憾なく発揮し、グングンと高度を上げていく。


 群衆が、豆粒よりも小さくなる。

 耳が痛いほどの高度。

 風が肌を切り裂くように叩く。


 そして、今日一番の高さへ達した、その瞬間。


 高度感知が反応した。


 カッ――


 ド ゴ ォ ォ ォ ォ ォ ン !


 青空に咲いた紅蓮の大輪。

 鮮烈で、破滅的で、息を呑むほど美しい爆華。


「美しい……ッ! い? ルピナくぅぅぅぅん!!」


 まったく想定外の爆発に、ローデンの感動と悲鳴が入り混じる。


 爆風に煽られ、キリモミ回転しながら落下していくルピナ。

 しかし、その手にはしっかりとカメラが握られ、レンズは世界を捉えていた。

 これが自発的なプロ魂か、単なる反射か、はたまた職業病かは分からない。


 ただ、ルピナは思った。

 もう、二度と投石器にだけは乗りたくない……と。

 大きな水しぶきが、彼女の姿を飲み込んだのだった。


 一方地上では、爆炎の花に沸き立つような歓声が上がった。


「すげぇもの見たな!」

「今年の天翔祭、当たり年だろ!」

「最後のは優勝でいいだろ、優勝で!」


 こうして今年の『天翔祭』は、前代未聞の爆発エキシビション をもって幕を閉じたのだった。

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