第3話 酒場にて夕食
祭りの前夜とあって、村唯一の酒場はひどく賑わっていた。
天井のランプは橙色の光を揺らし、長テーブルを囲んだ村人たちが酒杯を打ち鳴らしている。
挑戦者とおぼしき男たちは肩を組んで「明日は飛ぶぞ!」と吠え、そのたびに拍手と笑い声が巻き起こった。
焼けた肉と香草、脂の弾ける匂いが厨房から溢れ出し、酒樽からは赤みの強いエールが滝のように注がれていく。
明日の『天翔祭』を前に、村の血が沸き立っているのが肌でわかる。
そんな喧噪の奥、店の一番隅。
柱の陰にひっそり置かれた丸テーブルで、ローデンとルピナは静かに夕食をとっていた。
皿には、分厚いステーキ。
焼き目の中からほのかに鉄が香る。
ローデンは赤ワインを優雅に揺らし、ルピナは「まあ食べられなくはないですけど……」という表情を浮かべながらも、モリモリ食べていた。
「それにしても先生、相変わらず凄いです」
ルピナは肉を飲み込んでから、憧れと不満を半分ずつ混ぜた目でローデンを見つめる。
「何がだい?」
「村長と話した時ですよ。『魅了』の力、いつ見ても大したものです」
「ははは、あの程度は軽い挨拶のようなものだよ」
「挨拶でできるレベルじゃないですよ」
ルピナがむくれ気味に言うと、ローデンは深々とうなずき、杯を揺らした。
「ルピナ君。我々ヴァンパイアは長命と共に様々な能力が身につく。その能力は得手不得手といった個人差があり、私が多少『魅了』の能力に恵まれただけの話だよ」
「多少の範囲を越えているでしょ。村長さん、私には『どちらさま?』って反応だったのに、先生には『わが友よ!』くらいの勢いでしたよ」
「年季だよ、年季。君はまだ若い。むしろ、その若さにしては優秀な方だ。村長にしたって、相手の意識の隙はつけていたじゃないか」
「……そうですか?」
ローデンは穏やかに笑みを浮かべて頷く。
「もっと自信を持つといい。君の丁寧な口調も、あどけなさの残る見た目も、油断を誘うには好都合だ」
「褒められてる、んですよね?」
「もちろん。どこをどう聞いたら貶してるように聞こえるのかね」
「まあ、見た目はちょっと。その……コンプレックスなので」
ルピナは少し頬を赤らめると、誤魔化すようにジョッキをあおった。
どうにもどこかカチンとくる。先生は完璧すぎて腹が立つのだ。
「さて。それじゃあ明日の撮影の段取りを決めようか」
「はっ、はい!」
ルピナは慌ててジョッキをテーブルに下ろす。
そして、腰のポーチから魔導メモ帳を取り出し、姿勢を正した。
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