第7話


 そして職場にやってきた。

 正直、ちょっと慣れちゃったよね……。

 母校のグラウンドよりも馴染んでいる気がする。運動部でもなかったから体育の時間ぐらいしか使わなかったことが遠因だろう。

 もう森育ちって言っても過言じゃない。

 森は大体三つのエリアに分けられる。

 深い順に奥から深層、中層、浅層だ。

 その深度が増す程に魔物は強く、そして多くなっていく。

 純粋に魔物狩りをする必要があるのなら、中層ぐらいまでは踏み込まなければならないのだが……。

 実はこれがちょっと難しい。

 肉体的にも――そして精神的にもだ。

 中層から、死亡率が十%程になる。

 つまり十人に一人はお亡くなりになられる計算だ。なにそれ怖い。

 年間で計算された死亡率なので、そんな頻繁に帰ってこない冒険者が出るわけじゃないらしいのだが……怖いものは怖い。

 安全を取るのなら浅層で狩りをすべきだろう。

 しかしまあ……浅層での狩りは儲からない。

 ぶっちゃけ、お肉になる動物を狩っている方がまだ収入になる。

 肉の安さから考えると、魔物の方がまだ獲物として優秀に思えるかもしれないが、キロ単価で言えば悪くない結果となる。

 何より、浅層での魔物の発見率の悪さを考えると……どちらが儲かるかなんて言わずもがなである。

 それでも魔物を狩る。

 何故かって?

 ――簡単だからだ!

 一頭に付き十~二十キロぐらいの『お肉』になる動物だが、それはちゃんと剥ぎ取れたらの話。

 ……残念ながら今までの人生で動物の解体なんてしたことがない。血抜きなんかの処理も、なんか血抜きした方が美味しくなるらしいね? というフンワリとした知識に基づくもの。

 そりゃアカンわ。

 倒したら黒粒子化する魔物の方がまだ楽である。

 一応、狩れたら狩れたで精肉店に持って行ってお金にできるけど……一頭三~八千ウィルとかなんだよね。鳥肉のみ高価。

 運ぶ手間や荷物になることを考えると、俺にとったらゴブリンを探す方がいい。

 もう帰るって時に見つけるんならいいんだけど。

 結構見通しがいい森の浅層を警戒しながら進む。

 やはり街から近い部分は人気もあって新人冒険者で取り合いになる。なので他の冒険者との競合が嫌な俺は、主に街から少しばかり離れた所を探索している。

 森は、日の光が木々の間から差していて明るい。たまに吹く風も歩き詰めている体に心地良く、爽やかな香りにはリラックス効果も期待できる。

 浅層は綺麗で歩きやすい森なんだよ……トラブルになりそうなのは人間ぐらいでさ。


「――誰か! 誰か助けて!」


 ほらね? 思ったら来たよ。これがフラグってやつです。証明終了。

 甲高い――おそらくだが少女の助けを求める声に、俺は素早く身を

 見つかればこっちに寄ってくるぞ……! 姿を見せないようにせねば――!

 ベッタリと張り付いた樹木の裏から恐る恐る顔を覗かせる。


「誰か! 誰かあ?! お願いします! 助けを……! 助けて!」


 波打つ金髪に青い瞳の可憐な少女だ。

 フリフリのドレスなんかが似合いそうな容貌だが、今は冒険者の初期装備である皮鎧を着て、初心者お馴染みのショートソードを手に走っている。

 追い掛けるはゴブリン。

 体格的には小さめの……良く言えば倒しやすそうなゴブリンが一体、少女の後を追っていた。

 この如何にもなテンプレ。

 転生者には垂涎の、可愛い女の子ゲット展開に思えるだろう……。

 だが実は違う。


「誰か……誰か、助けて……もう、もう――――ああもう!  疲れたじゃない!」


 悲痛で可憐な声が、キンキンとした荒々しいものに変わる。

 ……声質的に同じってのがまた凄いよな。

 冒険者っぽい口調に変化した金髪少女は、踵を返すと手にしていたショートソードを一閃。急に肉薄してきたことに驚いているゴブリンを一薙ぎにした。


「……あー、もう。随分と狩り場から離れてきちゃったじゃない。カモもいないし」


 キョロキョロする少女に見つからないように、サッと顔を引っ込める。

 これが所謂『釣り商法』ってやつだ。

 ええかっこしいの男の子冒険者を一本釣りするために編み出された、伝統ある商法である。

 ここで「ありがとうございます! 是非とも御礼を!」と言ってくる可愛い女の子と、なんやかんやありながら酒場に洒落込み――気づけばパンイチ。

 どっかで聞いたことのあるような手法なのは、どこの世界だろうとアルコールは危ないということなのだろう。

 そりゃ抗えないよな。

 見目麗しい少女と『もしかしてワンチャン……』なんて期待できる展開にされたらさ。

 そして尚のこと、向こうは向こうでそういうこと言ってくるから……!

 「私、お金無くて……今日泊まるところも……」とか「強いんですね? 憧れちゃいます! あの……出来たら私のことも、鍛えていただけませんか? ……なんでもしますから!」とか。

 大抵は酒場の主人と話がついているから「いや、お前さん、昨日は『自分が全部出すから』って言ってたぜ?」なんて言われて証拠が無くなるまでがワンセット。

 さらには「あ、この装備ありがとうございます! 私、この装備でこれからも頑張って行こうと思います!」というオチまでついてくる。

 なんともお得なサービスになっていた。

 しかし残念ながら、まだ二十歳じゃないからさ? 異世界と言えどお酒なんてまだまだ……。

 どうやら僕の年齢向きのサービスではないようなので、再び獲物(新人冒険者)を探し始めたキャッチのお姉さんに背を向けて、その場をそっと離れることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る