24日目

調査24日目  2021年12月17日


氷室宗一郎による儀式経過観察ログ:2021年12月17日


00:00 儀式結界展開完了。橘殿、自力で意識を集中させ、儀式開始状態へ移行。葉月は結界の傍らで安定化と暴走対策を担当。外部からの干渉は皆無。(儀式開始)


00:30 橘殿の呼吸、心拍が安定。深い瞑想状態に入ったことを確認。呪いの領域への意識の沈潜が始まる。


01:30 橘殿の体温が微かに上昇。意識下の接触が始まった兆候。外部から見ても変化なし。


02:30 橘殿の指先がわずかに痙攣。意識が「鬼遊び」の核心、精神の迷宮へ侵入していると推測される。


04:00 橘殿の額に汗がにじみ、微かな苦悶が観察される。深層意識での対峙が激化していると判断。


04:35 橘殿の口元が歪み、苦悶の表情が明確に現れる。儀式が中盤、心理的な核心へ入ったことを示す。


04:40 橘殿から「私のせいで? みんな? どうして?」「いやっ!」という、苦悶と否定の混ざった声が断続的に記録される。肉体は僅かに震えるが、葉月の維持する結界によって暴走は抑止されている。


04:45 橘殿から「私は……救う!」という、張り詰めた強い声が一度漏れ出たことを記録。直後に儀式結界に強い光の揺らぎが発生。儀式終了の兆候。


05:00 結界が完全に収束。橘殿、極度の疲弊状態で意識を戻し、葉月殿に全身を預ける。葉月殿の結界維持のサポートを記録し、「一回戦の勝利を確認しました」と伝え、明確に「ひとりかくれんぼの勝利」を記録する。



 ◇



橘あかりの回想 / 儀式実行ログ(一回戦:ひとりかくれんぼ)

2021年12月17日00:00〜


 境内の中心に設置された、白い小さな手作りの人形が依り代である。人形の内部には、私自身の過去の不幸『怪異に仲間を巻き込んでしまった後悔』が詰まっている。


 私は、葉月と定めた作戦の通り、儀式の開始作法を実行した。


 境内の暗闇の中、人形を木の根元の窪みに置き、私は目を閉じて唱えた。


「依り代よ、私が鬼です。私があなたを見つけます」


 この言葉を唱え終えた瞬間、儀式は開始された。


 私が目を開けると、周囲の境内の風景は変わらないが、視界のすべてが鉛のように重い暗闇に覆われている。依り代は、私に見えない形で、すでに最初の隠し場所から移動している。


 制限時間は日の出(05:00)。その前に依り代を見つけ、呪いの力を鎮めなければならない。


 私は、最初の隠し場所に向かって走り始めた。その途端、石灯籠の影から、透の姿が浮かび上がった。透は顔を青白く歪ませ、悲痛な声で私を責める。


 透:「お前が勝手なことをしたせいで、僕は古賀教授を殴りつけなければならなかった。刑事の山崎に喉を締め上げられたんだ!  お前のせいで、僕たちはこんな暴力と危険に引きずり込まれたんだ!」


 道を変えると、鳥居の柱の横に、葉月の姿が現れた。彼女の目にはいつもの鋭さがなく、深い絶望が宿っている。


 葉月:「あんたのせいで、私は刑事の山崎に殴られ、意識を奪われた!  あんたはいつもそう。大切なものを救おうとして、結局は私たちを最も深く傷つける! 何度あんたに苦しめられたらいいの!」


 更に、境内の手水舎の奥からは、葵の幻影が姿を見せる。その口元は、血の滲んだような笑みを浮かべていた。


 葵:「裏切り者! 助けてくれるって言ったのに!  あかりのせいで、私はひとりエッチを強制配信され、最後は里奈の魂に身体を乗っ取られた!  お前が鬼遊びを終わらせようとするたびに、私は何度も汚されるのよ! 返してよ、私の尊厳!」


 彼らの姿は、私が動くたびに道を塞ぎ、視界を遮り、罵倒を浴びせてくる。私はその場に立ち尽くし、全身の力が抜けていくのを感じた。



「……私のせいで? 私は皆を苦しめた?」


 幻影たちの顔が歪み、嘲りの笑みを浮かべる。


「みんな……。どうして?」


 負の感情が暗闇となって私を押しつぶそうとする。私は必死に頭を振る。


「いやっ!  違う……! 苦しめたかったわけじゃない!」


 彼らが、依り代が隠れている場所への妨害である。


 私は、彼らの苦しみを引き起こした後悔を、胸の奥で深く受け止めた。しかし、立ち止まるわけにはいかない。彼らをこの呪いから、絶対に守り抜く。その決意が、私の心を貫いた。


 私は、葉月と定めた作戦を実行する。愛情を光源とすること。私は、彼らへの思いを、救済の意志として、心臓からねじり出した。


 その瞬間、胸元から熱も色もない、純粋な光の意志が放たれた。


 暗がりを明かりで照らす。


 光が透、葉月、葵の幻影に触れると、彼らの姿は音を立てて崩れ去り、ただの影に戻った。罵声は途切れ、道が開いた。


 光は、境内の本堂の裏側を、正確に指し示した。依り代は、最も神聖で、かつ、最も忘れ去られた場所、賽銭箱の裏の小さな空間に隠れていた。


 私は光に導かれ、依り代が隠れた場所にたどり着いた。白い人形は、幼い子供のような姿を幻視させながら、恐怖に震えていた。


 私は光を強く灯したまま、その人形に向かって叫んだ。


「みいつけた!」


 依り代の拒絶の悲鳴が、光の中でかき消える。私の手が人形に触れた瞬間、「私はあなたを救う。この罪も、すべて引き受けて進む」という意志が、「私は……救う!」という言葉となって漏れ出た。


 依り代は私の支配下に取り戻された。周囲の暗闇が急速に引いていく。依り代の後悔に、想いに、私は向き合う。


 ひとり鬼遊び、一回戦に勝利したのだ。

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