最強の魔女。弟子の旅路

バネもってこい

第1話 最強の魔女の死

 この世界には最強の魔女がいた。


 名前は『エルトラ・ノヴァ・カリアン』。年齢不詳。不老不死の魔法を習得し歳は1000を軽く超えていると言われている。


 性格は傍若無人にて唯我独尊。気に入らなければ即座に破壊し、気分がすこぶる良い時には人助けもする。基本的な行動は前者だ。


 最強の名に相応しく、彼女は強かった。気まぐれで戦争に参加しては1人で戦況をひっくり返し、敵味方問わず魔法をぶっ放しては高らかに笑った。


 圧倒的な個としての力。故に彼女の存在1つで勝敗が決まる。利用しようなどと考えてはいけない。下心を見透かされれば真っ先に叩き潰される。


 中立の立場を自ら選ぶのではない。彼女はどこにも属さず自由に身を置く。


 エルトラは大いに恐れられ、ごく稀に崇拝される。要するにどこまでも浮いた存在だった。


 少しだけ、この世界に目を向ける。


 魔女とは生まれつき強い魔力を持ち高度な魔法を扱う女。対して男は魔法使いと呼ばれ、総じて魔法族と呼称する。


 この世界の歴史は魔法族と人間の争いの連続だった。


 魔法族が魔法で人間をいたぶれば、人間も武器を持って反撃に出る。選民的思想を持ち能力が高い者だけを魔法族として受け入れた結果、数の利は人間にあった。


 近年は魔女狩りが横行するなど、人間の世の中になりつつある。しかし、魔法族の力も依然として脅威だった。


 そのトップに立ち暴れ回る最強の魔女こそ、エルトラだった。


 人間は学んだ。気分さえ害さなければエルトラが牙を剥くことはない。彼女が好き放題するくらいなら戦争なんてやめておこうと。


 そんな束の間の平穏に浸る世の中に、衝撃の知らせが届いた。


 エルトラの死。雷撃の如く世界に広がり、誰もがにわかに信じようとはしなかった。


 さて、改めて言うが彼女はどこまでも自由気ままだった。


 魔法族に喧嘩を売り、人間にも被害を出す。同族に同胞はおらず、友と呼べる存在もいなかった。


 ただ彼女には1人の弟子がいた。生涯で唯一傍に置いた正真正銘の弟子だった。


 この弟子こそがエルトラの死を伝えたその人物に他ならない。


 そしてこれは最強の魔女が残した唯一の弟子が歩む物語である。

 

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