第4話 市場を支配する光、広告塔・宮下サキの登用
EBT社の法務基盤は、一条アヤカの手によって瞬く間に鉄壁のものとなり、AIアルゴリズムの権利はクリーンに確保された。しかし、AI開発に必要な5億円の資金は、まだ手元にない。
「資金調達のためには、我々の『未来予測型AI』の概念を市場に売り込む必要がある。だが、山村のAIは、完成すれば世界を変えるが、今はただの理論だ」
田中部長はホワイトボードに「資金」と「市場の信用」の二つの課題を書き出した。
「神崎、必要なのは『信頼』と『熱狂』だ。誰もが無視できないほど、我々の会社に光を当てる広告塔。ただの広報ではない。未来のテクノロジーを語るにふさわしいカリスマ性が必要だ」
田中部長の頭の中で、【決断力】が最適解を導き出した。それは、彼が元々業界内の噂や人事に詳しかった記憶の中から、最も効率的な人物を弾き出した結果だった。
「動くぞ。今、俺の頭の中に必要な人物の顔が浮かんでいる。宮下サキだ。元大手IT企業の広報担当だった。彼女の能力は知っていたが、あの会社では上層部に認められず、今は地方のベンチャー企業で埋もれている。彼女こそが、我々の光を世界に届ける『顔』だ」
ユウトたちは、宮下サキが担当する小さなイベントの終了後、控え室へ向かう彼女を廊下で待ち伏せた。
「宮下さん、少しお話があります」
田中部長の威圧的な雰囲気に、宮下は警戒心を露わにした。
「あなたたち、元A商事の田中部長と、その……部下? 私に何の用ですか。特にあなた、田中部長。あなたのやり方は旧態依然としていて、嫌いでした」
ユウトは、宮下が持つ「広報・市場操作」の才能は、EBT社の初期段階において最も重要な『武器』になると確信していた。
ユウトは、周囲に人がいないことを確認し、素早く能力パネルを操作した。
ターゲット:宮下 サキ(30歳)
ポテンシャル A (市場の熱狂を呼ぶプロデューサー)
欠落才能 【市場心理操作】【カリスマ性】
推奨EP 700万 EP
「700万EPを、宮下サキの【市場心理操作】と【カリスマ性】にインジェクト」
【残高:1,034,171,887,552 EPに減少。宮下サキへインジェクト完了。】
EP注入を受けた宮下サキの体が、一瞬硬直した。彼女の瞳は一瞬だけ焦点が定まらなくなったが、すぐに戻り、ユウトたちを真っ直ぐ見据えた。
その場の空気は一変した。宮下の口調から、警戒心は消え、代わりに研ぎ澄まされたプロフェッショナルの自信が溢れ出した。
「...失礼、少し体調が悪かったようです。さて、田中部長、神崎さん。私に何の用ですか。ただのスカウトなら時間の無駄です」
「我々は、世界を変えるAIを開発するEBT社だ。君に、その光を世界に届ける『顔』になってもらいたい」と田中部長は単刀直入に言った。
宮下サキは、田中部長の言葉に鼻で笑うことなく、冷静に質問を投げかけた。
「世界を変える、ですか。具体的な戦略は? 5億円の資金が不足している状態で、私が動く意味があるのか、論理的に説明してください」
田中部長は、一条アヤカの取得した法務情報と、山村課長のAIの概念を簡潔に説明した。
宮下サキは、腕を組みながらその情報を聞くと、目を閉じ、一拍置いてから断言した。
「...分かりました。私に任せてください。この会社が持つAIの潜在能力と、『努力の対価』という概念は、市場の熱狂を呼ぶための完璧なフックになります」
彼女は、まるで市場全体が手のひらにあるかのように語った。
「私が行うのは、『田中部長のカリスマ的な起業家としての再プロデュース』です。そして、私自身の『未来を予見する広報官』としてのイメージを確立する。この二つを駆使し、1ヶ月で初期の5億円を調達します。そのための市場操作の計画は、私の頭の中ではすでに完成しています」
ユウトは、覚醒した宮下が示す冷徹な自信と具体性に、背筋が冷たくなった。彼女もまた、「最高の道具」として、組織に不可欠なピースとなった。
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