ハルカ・ハルシネーション・ラブ ~告白の理由はAIが俺を選んだから~

uruu

第1話 AIの選択

「データはこんなところか……」


 パソコンの前に座る女子高生・白崎春香はつぶやいた。


「よーし、この中から、私にふさわしい人を選んで! お願い!」


 エンターキーを押すと、結果はすぐに表示された。


「うーん、なるほどねえ……」


 腕を組んで、春香は画面をじっと見つめる。


「そっか。でも、あとは――」


◇◇◇


 高校一年。二学期も終盤になると新鮮さなんてとっくに薄れ、毎日は同じことの繰り返しになる。期末テストも終わり、あとは冬休みを待つだけとなった今は特にそうだ。


 朝の路面電車を降り、冷たい風の吹く通学路を歩く。

 だが、いつもと違って周りに生徒は少ない。当然だ。こんなに朝早く学校に来るのは部活の朝練に出る生徒ぐらいだろう。


 俺――荒木悠真あらき ゆうまがこんなに朝早く登校している理由は昨日届いた不可解なメッセージの真意を確かめるためだ。


『荒木君、私と付き合ってください』


 昨日の夜、唐突に送られてきたこのメッセージ。送り主は白崎春香しらさき はるか。クラスの中でも目を引く美少女だ。肩に掛かるぐらいの黒髪に、黙っていればアイドルとして通用する美貌。そして、ちょっと変わった子としても知られている。


 もちろんクラスでも人気で、その美しさと言動のかわいらしさには俺も目を惹きつけられてはいた。だけど、まともに話したことなどない。確かに時々変わったことをする子だけど、いくらなんでもこのメッセージはおかしすぎる。


『乗っ取りか。誰だ?』


『違いますよ。白崎春香本人です』


『付き合うってどういう意味だ?』


『言葉通りの意味です』


 どう考えてもおかしい。モブの俺と付き合う理由など白崎春香にはないのだ。これは何か深い事情があるに違いない。


 というわけで、直接、話をすることになった。出来るだけ早いほうがいいということで翌日の朝になったのだ。


 約束した場所は屋上。ここは冬の朝に来るような場所じゃない。だから二人きりで話せるはずだ。


 屋上へと続くドアを開けるとそこにはコートを着た白崎春香が居た。どうやら本当に本人が送ったメッセージだったようだ。


「待たせたなら悪い」


「ううん、私も今来たところ」


 ほほえみを浮かべ、白崎春香は言った。


「それで……昨日のアレはどういう意味なんだ?」


「言葉通りだよ。私と付き合って欲しいってこと」


「確認するけど、恋人になれってことか?」


「うん……ダメかな?」


「ダメっていうか……そりゃ白崎さんと付き合えるなら嬉しいけど……」


「やった! ありがとう! じゃあ――」


「ちょ、ちょっと待って! 理由を聞かせてくれ。君と俺とはほとんど話したこともないだろ。だから好きになる理由もないし」


「別に好きとかじゃないよ」


「は? じゃあ、なんで俺と付き合いたいんだよ。罰ゲームか?」


「そういうことじゃなくて、私もそろそろ彼氏が欲しいと思って。だって、もうすぐクリスマスでしょ? 友達も彼氏と過ごすって言うし、私も彼氏とクリスマスを過ごしたくなったの」


「それはわかるけど、なんで俺なんだよ」


「だって、誰を彼氏にしたらいいか分からなかったから……AIに聞いたんだ」


「AI? って、チャットで会話するやつか?」


「うん。身長、体重、性格、ルックス……いろんな要素を入力して私にふさわしいのは誰かと尋ねたわけ。そしたら君が選ばれたの」


「はあ?」


 どうやら俺はAIに選ばれたようだ。


「でも、生徒のデータなんて、どうやって入手したんだよ」


「入手なんてしてないよ。身長と体重は私が見た目で適当に入れただけだし」


 つまり、全部白崎さんの主観データってことか。


「だったらルックスも白崎さんの判断か?」


「そうだよ」


「じゃあ、俺を高評価にしてくれたってことか?」


「高評価って言うか……5段階評価で3ね」


「普通かよ。なんでそれで俺が選ばれるんだ」


「AIが言うにはルックスが高いと浮気の確率が上がるんだって。だから、私は絶対に浮気しないことを最優先ににしたの」


 そういうことかよ。まあ、確かに今まで女性と縁が無い人生を送ってきたけど。


「あのな、AIってのは間違うこともあるんだぞ」


「知ってるよ。ハルシネーションってやつでしょ。情報の授業でも習ったし」


「だったら、なんでそのAIの言うことを信じるんだよ」


「100%信じてるわけじゃないよ。だから、試したいの。あなたと交際してみて、AIの推薦する第一候補のあなたがどういう人かを知りたい!」


 白崎さんの目がらんらんと輝いているような……好奇心と情熱が混ざったような目だった。その目に気圧されながらも、俺は言った。


「だったら、付き合わなくてもいいんじゃないのか? 友達からで」


「いやだよ。もし友達から始めちゃったら、あなたが私にふさわしいって分かったとき、私から告白しなきゃいけないじゃない。そんなの恥ずかしいし」


 両手で頬を押さえて真っ赤になっている。

 ……いや、AIで相手を選んで告白するほうがよっぽど恥ずかしい気がするけど。


「それに、友達のままじゃ、他の女子に取られちゃうかもしれないから」


「それはないと思うけど……とにかく、白崎さんのお遊びには付き合えない。他を当たってくれ」


 どう考えても、面倒ごとになる。しかも白崎さんは俺のことが別に好きじゃないんだし、これは完全にお遊びだ。だけど、度を超している。

 俺は白崎さんに背を向け、屋上を出て行こうとした。


「ま、待って! 私を振る気!?」


「振るって……好きじゃないんだろ? 俺のこと」


「でも、これから知っていけば好きになるかもしれないんだよ?」


「ならないよ、俺なんて」


 今まで女子に興味を持たれたことなど一度もないのだ。ましてや白崎春香の相手がつとまるわけがない。どうせ振られるなら付き合わない方がいい。

 俺は再び歩き出した。


「待ってってば!」


 そう言いながら、白崎さんが俺の手をつかんだ。思わず立ち止まる。滅多に無い女子の手の感触だが、この寒い屋上で待たされたせいか、冷たくなっていた。


「……荒木君の手、あったかいね」


「白崎さんの手、冷たいな。冷えちゃまずいから中に入ろう」


「う、うん……」


 俺たちは屋上を出て室内に入った。


「ふう……」


 白崎さんは一息ついたあと、言った。


「荒木君、やっぱりダメかな?」


「ごめん……」


「そっか、ごめんなさい。迷惑かけちゃって」


 白崎さんは俺に頭を下げた。


「い、いや、俺の方こそ……頭を上げてくれよ」


 白崎さんは頭を上げて言った。


「考えてみたら、こんな変な女と付き合ってくれるわけないよね。AIで付き合う相手選ぶなんて、どうかしてるもんね。アハハ」


「白崎さん……」


「どうせ、私はクリスマス1人なんだ……彼氏なんて一生できないんだ……」


 白崎さんはいじけモードに突入してしまったようだ。こんな美少女がそんなに自信がないなんて思ってなかった。


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