第5話 なぜか苦戦している山田
「す、凄い……」
俺が休憩している間、氷城さんが襲いかかってくるモンスターたちから俺のことを守ってくれていたのだが、その圧倒的な強さに驚いた。
俺とグレイ・ウルフの戦いの音を聞いてか、様々なモンスターたちが姿を現していた。
俺が戦ったモンスターである『グレイ・ウルフ』だけでなく、小鳥の姿をした銃弾のように高速で突撃してくるオレンジ色のモンスターである『バレット・スピナス』や最弱モンスターとして有名な『スライム』など。
たしかにダンジョンに生息するモンスターの中では比較的弱いモンスターばかりではあるが、明らかに数が多い。
だが、氷城さんは顔色一つ変えず、攻撃を上手く避けながら、的確にモンスターたちの喉元に短剣を突き刺していく。
かなりの数がいたモンスターがあっという間に灰になって消えていった。
あまりにも強い。
力だけじゃない、敵の攻撃を予測しながら動いている。これが、冒険者の動きなのか。
先ほどの戦いでの俺も初戦にしては上手く動けていたと思うが、氷城さんと比べてしまうと、あまりに無駄が多かったように感じる。
「こんなものかな」
大量のモンスターの相手をしたというのに全く息が上がっていない。
俺はたった一体のグレイ・ウルフの相手をしただけで休憩を挟まなくてはならないほど疲れているというのに。
(情けないな)
いくら冒険者になったばかりとはいえ、こんな情けない姿を見せてはいけない。
そう思い、木に手をつきながら立ち上がった。
まだ膝が少し震えているが、先ほどよりはだいぶ回復している。
「まだ休んでいてもいいんだよ。疲れているでしょ?」
「問題ないよ。俺はまだ戦える」
「そっか。それなら先に進もうか」
「うん」
氷城さんは穏やかで嬉しそうに笑みを浮かべた。
俺は周りを警戒しながら氷城さんの後ろをついて行く。
♢
進んでいくと、先ほどまでの明るかった景色が一変して真っ暗な洞窟へと変わっていた。
暗闇から急にモンスターが飛び出してくるかもしれない。
「このドアの先に二階層へと続く階段があるの」
氷城さんの指差す先には、粗く削られた岩の巨大扉が通路の奥を閉ざしていた。
が、そのドアの前には番人のように立ちふさがる金棒を持つ豚の様な顔立ちをした三メートルほどの大きさのモンスター、『オーク』が一体、立ちふさがっていた。
「ま、ま、待て!」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
目を凝らしてよく見てみると、オークの前に一人の男が大剣を振り回して、オークから少しでも離れようとしていた。
(なんでこいつがここに……)
その男は、俺のことをパシリとして使い、馬鹿にしてくる山田だった。
こんなところで一体何をしているのだ。
さっさとオークを倒して先に進めばいいのに。
俺にとってオークは強敵かもしれない。
だが、それは俺がLV.1の冒険者だから。
山田は自分で「LV.3」だと言っていたはずだ。つまり、山田にとってオークはそこまで強い相手ではないはず。
なのになぜ、倒さずに距離をとっているのだろう。
俺が知らないだけで、オークとの戦い方の基本だったりするのだろうか。
それにしてはかなり逃げ腰のような……。
『ウォォオオオオオオオオオッ!!!』
オークが金棒を振り下ろした。
山田はギリギリでその攻撃を避けた。というより、運よく当たらなかったという方が正しいかもしれない。
「ひいっ!」
あー、やっぱり逃げようとしてるよね。
俺の勘違いじゃないみたいだ。山田は確実にオークから逃げようと隙を伺っている感じだ。
LV.3なら逃げる必要なんてないはずなのに。
もしかすると、どこか怪我でもしているのだろうか。
「ねぇ、優斗。見返すチャンスじゃない?」
「えっ?」
氷城さんは突然、ニヤリと悪魔的な笑みを浮かべた。
見返すチャンス?
俺が、山田に?
「あの男、えーっと、山田だっけ。あいつ、あのままだったらやられるよ」
「やっぱり、そうだよね」
「ここで優斗がオークを倒してあいつを助けたら、今までみたいにパシリにされなくなるんじゃない?」
「なるほど……。でも、俺が勝てるかな?」
「戦い方次第だよ。あの三メートルの巨体には足の関節への攻撃が一番有効。それさえ知っていれば、優斗なら勝てる」
「怖いけど、やってみる……!」
「危なかったら私も手伝うから、心配しないで。オークはグレイ・ウルフよりは確実に強いから気を付けてね」
「分かった」
一歩進む度に心臓の鼓動がうるさく鳴るが、歩みを止めずに進み続ける。
段々とオークと山田に近づいていき、山田の横で立ち止まった。
『ウォォォオオオオオオオオオオオオッ!!!』
オークは標的を山田から俺に変えたようで、叫び声をあげて俺を睨みつけてくる。
それに気づいた山田は俺の顔を見ることすらなく一目散に逃げていく。
「うぁああああああああああああああああ!!!!!」
「えぇ……俺を
囮にされてしまったが、どうせ戦うつもりだったのだ。問題はない。
「なんだこれ」
逃げた際に、山田が何かを落としていったらしい。
オークが突進してくる前に拾い上げ、ポケットに入れておく。
「狙うは足の関節ッ!」
氷城さんのアドバイスを口に出し、短剣を構えながらオークの足もとへ向かって走り出した。
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