ただ、君のそばで

森の妖精

プロローグ

プロローグ


最初に救ったのは、どちらだったのだろう。

 壊れた夜の向こうで俯いていた君か。

 手を伸ばした僕か。

 今ではもう、その境界が思い出せない。


 「ねえ、亮介さん。俺、どうすればいいのかな」

 快は震えた声でそう言った。

 街の光はきれいなのに、彼の視線は世界から取り残されていた。

 僕は何も言えず、ただ手袋越しにその手を握った。

 それだけで十分。

これ以上は何も欲さない。


自分に言い聞かせながら。


 あの日から僕らは、ゆっくりと日常を重ねてきた。

 朝食の皿を並べ、会社の噂に笑い、夜には星を見上げる。

 特別じゃない時間がこんなにも温かいなんて、知らなかった。


 これは、誰かを愛する物語じゃない。

 ――誰かと「生き直す」物語だ。


 ただ、君のそばで。

 それだけで世界は、優しく色づいていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る