【詩物語】宛先のない想いを空に還すとき

しおん

第一部

第1話 砂の記憶

砂は、まだあの頃の温度を覚えていて、

指の隙間からこぼれ落ちるたびに、君の笑い声が遠くで揺れる。


白いワンピースの裾が風に踊り、

私は貝殻を拾いながら、名前のない歌を口ずさんだ。


「帰るよ」と言われると、

なぜだかもっと遠くへ行きたくなった。


波は優しく、けれど確かに境界を描いていた。

ここから先は、まだ知らない世界。


君の手は少し冷たくて、

それがなぜか心地よかった。


今、同じ浜辺に立ってみても、

あの日と変わらないのは風の匂いだけ。


砂の中に埋めた小さな約束は、

もう見つからないけれど、


胸の奥で、

いまも静かに息をしている――潮騒として。


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