第23話 予期せぬ訪問者

 クリスマスが終わって、年越しはどうしようかなーって考えてた矢先、私はインフルエンザにかかった。

 家に引きこもって、高熱で完全にダウンしていた。

 こういう時、一人でいる事の心細さを痛感する……。


 実家付近で仕事を探せばよかったんだけど、田舎すぎて仕事がないし、あっても東京と比べたら額が全然違う。


 その時、母から電話がかかってきた。


「留美、インフルエンザになったって大丈夫?」

「あまり大丈夫じゃないけど生きてるよ」

「水分とって大人しくしてなさいよ?」

「うん、ありがとう」


 私を心配してくれている人がいる事が支えになる。


 ただ──


「瑠美、彼氏まだいないの?」

「お母さんその話やめて……」


 私はアラサーに突入してしまい、東京だと30代で結婚するとかザラだけど、私の地元だと、それは遅い。

 20代前半で結婚する人が多い。

 だから、色々言われる。


「実家に帰ってきたら?そっちだと一人だし、結婚もできないでしょ?子供の事もあるし」


 子供って。

 それどころじゃない!


「お母さん。今時、早く結婚して子供産んでって古すぎるよ」


 実家に帰ったらこのプレッシャーを与えられると思うと、帰りたくない。

 羽山さんの事は、話すとややこしくなるから黙っていよう。


 その後熱を測ったら──


 38.7℃


 スマホで会社の休憩時間帯に羽山さんからメッセージが届く。


『体調はどう?』


 心配してくれている。

 それだけで嬉しい。


 夜──

 ゲームは何とかログインできるから、羽山さんが入るタイミングで私も入って、ハヤテはあまるを抱きしめている。

 私は咳をしている……。


『好き』

『早く会いたい』


 余計熱が上がる事を言ってくる。

 私も早く会いたい……。


 ◇ ◇ ◇


 とうとう会社は年末年始の休みに突入し、私はやっと回復してきて、咳も落ち着いた。

 ずっと寝込んでいたせいで体力が落ちてて、フラフラしながらコンビニまで歩いていたら、スマホに着信があった。


 羽山さんからだった。


「はい!」

『今どこにいる?』

「え?家の近くのコンビニですけど」


 ふと視線を感じて振り返った。

 羽山さんらしき人が立っている。

 眼鏡に帽子とマスクでわかりにくいけど、なんとなくわかる。


「羽山さんどうして……」


「いきなりごめん。どうしても会いたくて」


 私にわざわざ会いに来てくれた──

 嬉しい。


 でも、羽山さんに住所を教えた記憶がない。


「何で私がここにいるってわかったんですか?」

「クリスマスに飯食ってた時、酔って色々話してたよ瑠美が」


 ……そうだった。

 舞い上がって自分でペラペラ喋っていた。


 羽山さんは紙袋を持っていた。


「それは何ですか?」

「うちの会社の女子社員が美味しいって言ってたやつ。駅に売ってたから買ってきた」


 嬉しい、優しい。

 羽山さんという存在が尊かった。


「ありがとうございます!」


 私は適当な私服にノーメイクでマスク。

 もっとちゃんとした格好をすればよかった……。


 いやこれは想定外!!


「家まで送るよ」


 家まで!?

 病み上がりだから部屋があまり片付いてないのに。

 マンションの前までしか無理!!


「いえ、自分で帰れますから……」


 これ以上醜態を晒したくない。


「そんなに気を使わなくていい。一応彼氏だろ」


 そこまで言われると断れない!


 ◇ ◇ ◇


 結局家まで連れてきてしまった。


 流石に家の中まで見せるのは嫌だったけど、せっかく来てくれたから、少しだけ上がってもらう事にした。


「あの、部屋散らかってますが、どうぞ」


 ドアを開けて、羽山さんを入れた。

 その途端、思い切り抱きしめられた。


 く、苦しい!


「会いたかった」


 羽山さんの想いが全身に伝わってくる。


「私もです」


 羽山さんの匂いも温もりも、私が欲しかったものだった。

 羽山さんはマスク越しにキスをしてきた。


「移りますよ!?」


 私はびっくりして離れた。


「予防接種してるから大丈夫」


 大丈夫じゃない!!


「予防接種しても移りますよ!!」

「うん、わかってる。でも無理だった」


 あんなに仕事の時は冷静で落ち着いてるのに。

 私に見せるこういう姿がとても愛しかった。


 ──でもこのままどうすれば?


「ごめん。もう帰る。色々余裕がない」


 余裕。

 余裕とは……。

 何となくわかったけど、考えない事にした。


 羽山さんを見送った後、幸せに浸りながら、少し眠った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る