第9話 不思議な関係

 羽山さんと、ビルの屋上に行った。


 緊張する……。


 屋上に着いて、手すりのあたりまで羽山さんと歩いて行った。


「……黙っててごめん」


 羽山さんは俯きながら呟いた。


 これはつまり──


「羽山さん、私が"あまる"だったって知ってたんですね……」


 知ってたのに、黙って遊んでたのか……。

 正確には、遊んでくれてたというか。

 助けてもらってばかりだった。


 暫くお互い何も言えなかった。


「……嫌か?俺とゲームするのは。上司だし」

「いえ…びっくりしましたけど、嫌ではないです」


 羽山さんは少し驚いた後、安心したような表情をした。


「できれば今まで通り、一緒にゲームをしたいと思っている」


 え?


「私とですか?」


「……"あまる"とだよ」


 "あまる"


 "ハヤテ"と"あまる"はフレンド。


 でも羽山さんと私は──


 同じ会社の、同じ部署で、上司と部下。

 大して話もしていない。

 お互いよくわからない。


「あそこだったら、リアルでどうだとか、関係ないだろ」


 羽山さんのポーカーフェイスは相変わらずだけど、目は優しかった。


「私なんかでよければ、これからも"あまる"として、宜しくお願いします。"ハヤテ"さん」


 胸が少し暖かくなった。


「ユーザー名。本名から作ったんだな」


 そうだけど、でも……。


「羽山さんもそうでしょう?」


 首からぶら下がる羽山さんの社員証に、"羽山哲治はやまてつじ"と堂々と書いてある。


 羽山さんは少し笑った。


「確かに」


 羽山さんが笑った……!


 ハヤテの正体より、そっちの方に驚いてしまった。

 笑った顔が、今までの雰囲気と全然違って、キュンとしてしまった。


 ハヤテの事は、結構衝撃的な事実だったけど、リアルはリアル、ゲームはゲーム。

 ここで私は天川瑠美と羽山哲治で、ゲームでは"あまる"と"ハヤテ"。

 これからもゲームで遊べるのは嬉しかった。

 "ハヤテ"とストーリー進めたかったし。


 そのあと私達はオフィスに戻った。


 その時、私たちの間に芽生えた、新しい繋がりに、ほんのりと喜びを感じていた。

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