コエ デナイ ワレ マオウ~魔王様は声が出ない!数百年挑戦者が現れなかったせいで、声が出ないんだが……どうしよう?~

みのせ

第1話 久方ぶりの挑戦

我は魔王。

この世界、ゼルファリオンに君臨する魔王が一人。


今日も今日とて、魔王城にて暇を待て余している。

最後に挑戦者が現れたのはいつの事だったか……。


門番としてケルベロスとオルトロスを数頭放し飼いにしてから、誰も訪ねて来なくなってしまった。


また同じ本でも読み直すか――

そんなことを思いながら場内をぶらぶら歩いていると、


ジリリリリリィッ!


警戒を表すベルがけたたましく鳴り始める。


「魔王様、申し訳ございません。城内に勇者の侵入を許してしまいました!」

燕尾服を着た執事の1人が慌てた様子で駆けてきた。


「現在、使用人たちが対処に当たっておりますが、勇者はかなりの手練れの様子。至急、玉座の間にて準備をお願いします。」

(ほーう、あの番犬達を突破したか)


執事はそれだけ告げると再び元来た道を駆け戻って行った。


侵入者など久方ぶりだ。

最後に来たのは何百年前だったか……。


良い暇潰しができたとワクワクしながら玉座の間にてスタンバる。

お約束のセリフも随分久しぶりだ、噛まずにちゃんと言えるかな?ちょっとだけ緊張してきた。


カツ カツ カツ 段々足音が近づいてくる。


我はなるべく尊大に見える様、玉座へ座り足を組む、ひじ掛けに肘を突き、手の甲に頭を乗せる。


入り口横で待機しているメイドに目配せをし、ポーズに問題ないかのチェックをする。


OKサインが出たので勇者たちが扉を開けるのを待つ。


足音が扉の前で止まる。


――


いよいよか……!


と思ったら微かな話し声と詠唱の音。


ボス部屋の前でバフを掛けるタイプか……強敵だな。


そしてゆっくり扉が開く――


「―― ―― ……!?」

(よく来たな 勇者よ……って声が出ない!?)


数百年声を発さなかった結果、我の喉は発声方法を忘れてしまったらしい。


(あれ?声ってどうやって出してたっけ?え?どうしよう?あれ?声が出ないって魔術も使えない?マジ?我魔術師ぞ!どうしよう?どうしよう?)


「……」

「「「「……」」」」


しばしの沈黙。

勇者一行と無言で見つめ合う。


(ええい!舐めるな!我は魔王ぞ!やったらぁ!)


単なるカッコつけで腰に佩いていた剣を抜き放ち、勇者へと無言で斬りかかる。



こうして、声の出ない魔王の、防衛生活が始まった……!

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