7 命に届く油断


 油断した。

 戦闘に勝利し、気が抜けていた。

 どうして目の前の五人だけが敵だと思っていた。

 どうして『増援がいる』と思い至らなかった。

 どうして……。




 後悔の前に、身体が動く。


 手近にあった携帯シールドを再び展開し、その陰に身体を滑り込ませる。


「ぐっ! ……がっ」


 チバの腹部に空いた穴は間違いなく銃創。

 しかしチバも防弾チョッキを着用している。


 その防具を易々と突き破って肉体を貫通するほどの威力を持った銃撃。

 これは、先ほどの連中が持っていたようなカービンでは考えられない威力だ。


(スナイパーライフル……しかも貫通力の高い銃弾を使ってやがる。同じように撃たれたら、シールドだってどの程度持つかわからんな……)


 今もチバの身を守ってくれている携帯用防弾シールドは、銃弾を徹しにくい特殊素材で出来ているものの、その素材は防弾チョッキにも使用されている。


 防弾チョッキを貫通する威力を持った銃弾ならば、シールドだって容易く撃ち抜いてしまうだろう。


(どうする……!?)


 今度は本当に絶体絶命であった。




 スナイパーライフルのボルトを引き、空の薬莢を排出して次弾をリロードする。


 床に座り込み、膝を立てたところに左肘を当て、銃口がブレないようにライフルを構えていたのは、蛍盗イィンダオの男。


「勇敢な蛍人イィンレンに告げる」


 遠くに明るく見えるカービンライフルのライトが、チバの位置を教えてくれていた。


 ターゲットを厳しい目で睨みつけつつ、暗がりから男が大声を上げる。


「すぐにそこから出てくるなら、苦しまないように殺してやる。渋るようなら地獄の苦しみを味わいながら死ぬことになる。……選べ」


 どちらにしろ殺す。死に方は選ばせてやる。


 そう言う選択肢を突き付け、男は持っていたライフルを構え、シールドの隅を狙って撃ち抜いた。


 高い威力を持った銃弾は易々とシールドを砕き、ダクトの遠くの方で火花を散らした。


 もし男がそのつもりであるなら、シールドの陰に隠れたチバを狙う事も出来ただろう。


 それをしなかったのは、チバに対しての威嚇行為である。


 男は瞬動勁功を使用した直後の蛍人イィンレンがどうなるのか、知っている。


 ゆえにチバが今、まともに戦闘どころか動く事すらままならないのも理解していたのだ。


 だからこそ、先ほどの選択肢も欺瞞ぎまんである。


 チバは動けないのだから、シールドの陰から出て来られないのは、百も承知というわけだ。


 圧倒的な優位に立ち、仲間を殺された怒りに燃えながらも、チバをいたぶる嗜虐心しぎゃくしんにも駆られているのだ。




 獲物の前で舌なめずりは三流のすること、とは言うものの、今のチバにはどうすることも出来ない。


 瞬動勁功の反動で身体中痛みが走り、脇腹には風穴が開いている。


 満身創痍のこの状態で、万事休すの状況を覆すような冴えた一手が思い浮かぶはずもない。


(流石に……ここまでか……)


 諦めが脳裏をよぎり、奥歯を噛みながら天井を見上げる。


 そうこうしている間に、もう一発銃弾が撃ち込まれ、その衝撃でシールドのおよそ半分ほどが砕けてしまった。


 床に固定していたシールドに寄りかかった状態だったチバは、そのまま支えを失って床にゴロリと転がる。


 最早起き上がる気力もなかった。


 だが、その時、耳につけていたインカムにノイズが走ったことに気付く。


『伏せて。顔を上げないで』


 端的に発された言葉。


 だが既にチバは起き上がる体力もないため、伏した状態のまま応答すらままならなかった。




 次の瞬間、チバの頭上を熱線が通り過ぎる。




 全てを灼く超高温を持った熱線は、ダクトを横一線に薙ぎ払い、触る全てをドロドロに溶かす。


 そこには壁もシールドも、人間の身体すら分け隔てはない。


(あれは……レイファンの……)


 霞む視界の中、チバが最後に見た景色はそれだけだった。


 意識が暗転する。

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