第3話 家と冴木の思い

 シェアハウスの住人は一階が男三人、二階が女二人です。伯父は二階に居ます。女性は二人とも二階を希望して、あたしは一階入り口近くの部屋に居ます。十二畳の吹き抜けのダイニングルームと同じフロアーに六畳のキッチンがあり、直ぐ上が伯父の部屋。トイレは二階と一階に一つずつある。風呂は一階にあり入り口に男女の入浴中の札を見て使う。札が外してあればどちらでも入れるが、その時は入り口に男女どちらかの札を掛ける。

 各部屋はほぼ六畳で、伯父はその倍で別にもうひと部屋に、バストイレが設置してある。玄関のタイル張りの三和土たたきと上がり口は三畳ほどあり、そこに下駄箱と傘立てがある。二階に上がる階段から廊下が吹き抜けのダイニングルームに沿ってあり、下から降りてくるのが解る。玄関上の小部屋には椅子があり、寛げて雑談も出来る。

 キッチンの冷蔵庫は、最初は一つだったが、入居者が出し合ってもう一つ買ったのは矢張り買い置きしやすいため。正面玄関から入って左は壁面で、部屋は上下右側にあり伯父はさっきも言った通り一番奥のキッチンの上あたりになる。夕食はあたしと一人当番を決めて二人でやって、特に希望があれば任せます。朝はトーストにバターとジャムがある。後は女の子たちが簡単なサラダとか作っている。もちろん代金は女の子たちが徴収している。休日は各自勝手に食事をする。伯父は此の家を残したお父さんが保有していた株の配当金で毎年数千万入るそうですが詳しい事は知りません。うちのお父さんは市内の便利な場所にあるマンションを貰って、それと会社の役員に収まってチャラにしている。

「だいたい此の家の説明はこんな処で、いよいよ伯父の部屋に案内します。アッ、それと伯父は下のダイニングルームは良く使って、みんなと喋ったりします。家のしきたりはあたしが全部受け持ってますので、使い勝手に関しては総てあたしに言って下さい。伯父はそう言う面倒くさいものには一切タッチしませんからよろしく」

 じゃあ今日は挨拶だけか。それと何か手間の掛かる時と車を使うときは伯父からお呼びが掛かるらしい。

 二階の吹き抜けの方に張り出した廊下を伝ってキッチンの上の部屋のドアをノックした。

「美紗和です。今日から来てもらう新しいシェアハウスの入居者をお連れしましたよ」

 気さくに声を掛けて中に入った。中はリビングルームで奥にもう一つ部屋があった。多分寝室とバストイレがあるんだろう。リビングは書斎机と壁の一面だけ書棚になっていた。

 冴木さんは三点セットのソファーに座っていた。歳の割にはがっしりして、染めているのか白髪はなく、還暦にしては余計に若く見える。それでも細かく見ると小じわやたるみも見られた。おおむねまだ現役でやれそうだ。本人は好きな物に凝って楽しんでいる。主人あるじに勧められてソファーに向かい合って座った。

「家のことは美紗和に聞いてくれ。まあ、ほかの連中も私と美紗和で面接して入居者を決めて、だいたい君と似たり寄ったり者ばかり居て、直ぐに気が合うだろう。で君はいくつだ」

「二十八です」

「そうか、まあ、みんなと歳も近いから直ぐになれるだろう」

 気さくそうで、何処に悩みを抱えているのか、一見しても見当が付かない。それで一筋縄ではいかないと先生は山上を指名したのか。

「此処の連中は学生もいれば働いてる者もいる。まあシェアハウスは姪から聞いて家族のような共同体だと聞いて、じゃあ平日の夕食は提供してやろうとこちらで賄って、朝も牛乳と食パンは休日以外は毎日欠かさず用意している。その分部屋の掃除とか食事の準備後片付けは住人に任せている。みんなが楽しくなるのに私は重点を置いている。学生の三人は芸大生と音大の生徒だ。働いている者もコンピュータ関係の仕事らしい。仕事はまあハッキリ聞いてないが、もう一人は素描きの友禅の職人だ。姪はパソコンでアニメの仕事をやってるが、君はその関係で姪から聞いて私も承諾した。今までみんなは物置に使っていたが、リサイクルショップに頼んで要らない物は全部処分して綺麗にしてある。ベッドと机は美紗和から聞いて残してある。あと必要な物は君が揃えればいい」

「今、聞いた住人を知ると、創作して作り出す人に関心があるんですか」

「大いに興味あるね。なんせ無から有。形ない物から形ある物に作り出す。そこに浪漫を感じて、そういう人ばかり入居してもらった。山上君もそうした物に取り組んでるそうで期待している。な〜に物にならなくてもいい。わしはやることに意義を感じて資産をそういう人材に使えば、もう何も思い残すことはない」

「伯父様はまだ若くてこれからでしょう」

「だからそう言う人を育てるのに生き甲斐を感じているんだ。まあ、そう言う事で宜しく、和気藹々わきあいあいとみんなと一緒にやってくれ」

 もし車で出掛けるときは頼む、と付け加えられて冴木の部屋を出た。

「何ですか。何処が変なんです。普通の人より理解力がある人じゃないですか」

「我関せず、好きにやればいい。ああして理解を示す人ほど、心の葛藤が激しいんじゃないの。まったく一体、今まで何を勉強してきたんです」

 言うだけ言うと彼女は山上の部屋を案内した。

「此処は冴木さんの隣じゃないですか」

「その方が伯父も頼みやすいのよ。あなたが一番の年長者だから」

 美紗和さんに案内された部屋は、さっき聞いた物置だった。それと運転や他の頼み事がしやすいように冴木が決めたようだ。






 

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