イヌマキの独白
はじめまして、読者の皆さま。先ほど『イヌマキ』というハンドルネームを授かった者です。つまりイヌマキです。
私が先ほどまで、目的不明の謎に満ちた会議に参加していたのには、少し補足説明をしておいた方がいいかもしれません。
大学に入りたてだった私は、これまでの学生生活の華の無さを払拭しようと、サークル活動に勤しもうと思いました。とりあえず何かコミュニティに入れば、大学生特有の青春が手に入ると思っていたのです。結果から言うと、三つのサークルの新入生歓迎会に参加し、大敗しました。結局のところ、ああいう場所で青春をほしいままにできるのは、高校までに順当な青春の過程を踏んだものだけだと気づいた時には、私は隅の席で一人でした。コミュニケーション能力を培ってこなかった私にとって、サークルというものがいかに自分とかけ離れた存在であるかを痛感しました。
身の丈に合わないことはやめよう。自分の性格に合った場所で細々生きようと心に決めた私の前に現れたのが、この事故物件完全攻略サークル『奥の院』勧誘のチラシでした。『募る除霊師 四月十日十七時 四号館第二演習室』とだけ書かれたインパクト抜群の誘い文句に引かれてしまったのです。この時の私はどうかしていたのかもしれません。「事故物件といえばオカルト系、なら地味な私でもなんとかなるかも」という浅はかな期待が二割、「もうどうにでもなれ」という勢いが八割でした。割と、踏み込みには強いタイプなのです。
チラシで提示されていた第二演習室に向かうと、教壇で腕を組む謎の男性(のちにその方はリーダーのイチジョウさんであることがわかります)と、三十人ほどの新入生たちでした。こんな辺境のサークルにやってくるなんて、私ひとりだろうと思っていたのですが、意外に皆さんオカルト的なことに興味があったようです。教壇の男性は時間が来ると、何の説明もなしに解答用紙と問題用紙を配り、適性試験なるものを実施したのです。試験内容は、様々な心霊現象に遭遇した際に自分がとるであろう行動を小論文形式で記述するもので、「なかなか本格的だな」と感心しながら解き進めていきました。
その結果、試験合格者はたったの一人で、それが私であると発表されました。不合格だった新入生たちの尊敬とも畏怖とも取れる視線を受けながら、私は正式に、事故物件完全攻略サークル『奥の院』のメンバーになることを許可されました。お気軽に入れると思っていたのに、ここまでくると「あ、やっぱり思ってたのと違うのでやめておきます」などとこの私が言えるはずもありません。そんなことを言える勇気があるなら、今頃私はこんなところにいません。他のどの新入生よりも困惑していた私は、朦朧とする意識で、私だけが合格した理由をイチジョウさんに尋ねました。すると彼はこんな風に言うのです。「我々が必要とする人材は、『ホラー映画で絶対に生き残るタイプ』だ」と……。これは、誉め言葉として捉えて良かったのでしょうか……。少し微妙なところです。
そんなことから初めて参加したのが、先ほどの作戦会議です。具体的な活動内容など一切知らされない状態でのあの会議です。教室の隅でほとんど言葉を発さない人、大学生とは思えない風貌と話し方をしている人、物騒な単語……。あんな状況でまともな自己紹介ができた私を、誰か褒めて欲しいと思いました。
少し話し過ぎましたね。
では、また。
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