第30話 緊急会議
生徒会室には、既に三人が集まっていた。
それぞれが自席に座り、静かに机上へ視線を落としている。
……会議が始まる前から、空気が重かった。
「真宵先輩、横どうぞっす。」
「秀一くん、ありがとう。みなさん、遅くなりました。」
空気の重さに息を潜めていた私に、秀一くんがわずかに笑いかけてくれた。
……その笑顔は、心なしか硬いが。
秀一くんの横へ座る。
他の人に悟られないよう、そっと馨さんへ視線を滑らせた。
「いいえ、真宵さん。活動時間ぴったりなので気にしないでください。私たちの集合が早かっただけです。」
「お気遣いありがとうございます、馨さん。」
彼の穏やかな表情に、胸を撫で下ろす。
……普段の優しい馨さんだ。
昨日の不穏な様子は夢でも見ていたのかもしれない。
「では、全員集まったな。これより緊急会議を始める。」
ルルさんの低い声が室内を震わせる。
緊張の走る中、始まった生徒会の会議。
ルルさんは深くため息を吐き、重々しい口調で告げた。
「先に結論から言おう。――我々、生徒会は文化祭準備に参加できなくなった。」
空気が音を立てて凍りついた気がした。
「どういうことですか?!」
いてもたってもいられず立ち上がってしまう。
隣の秀一くんが、びくっと身体を震わせた。
「真宵先輩……。実は、生徒に話しかけても、誰も反応してくれなくなったっす。」
目を伏せて、歯を食いしばる秀一くん。
馨さんも、どんよりと肩を落としてしまう。
生徒の様子を確認してくれた2人は……私よりも早く、現実を目の当たりにしたのだ。
「秀一くんの言う通りです。声をかけても私たちを認識していないのか、誰も手を止めず黙々と作業されます。無視されては話を聞けません。」
「無理矢理話しかけても、まるでロボットのように生徒全員が同じ言動を繰り返すっす。これだと、会話が成り立たないので手伝おうにも何も出来ないっす……。」
ルルさんの言っていた通り、昨日の強制リセットで生徒は変わってしまった。
ゲームのキャラクターとして機能するために、心を奪われてしまった結果だろう。
――もう二度と、彼らの感情を理解できない。
……受け止めたはずの現実が、ゆっくりと胸の底へ沈んでいく。
言葉を探す前に、膝が勝手に折れてしまった。
「今まで真宵さんや秀一くん、私の仕事は文化祭の進捗確認や生徒のお手伝いでしたからね。このままだと作業に参加できず、文化祭の開催も怪しくなってしまいます。」
「そんな……!馨さん、それはダメっすよ!」
馨さんの言葉に、誰よりも悲痛な声を上げたのは秀一くん。
伏せていた目がぱっと開き、興奮から頬がみるみる赤く染まる。
「しかし、会話が成り立たないのではどうしようもありません。」
「そうっすけど…………!」
机上で指を組み、淡々と事実だけを述べる馨さん。
それを、必死に食い下がるように否定する秀一くん。
2人の温度差が胸に刺さり、やりきれない息苦しさが広がった。
そのとき――
「――いいや、文化祭は無事に開催される。」
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