第13話 ルルさんと話したい

「では、真宵も戻ってきたことだ。引き続き活動を始めようか。」


 ルルさんの言葉を皮切りに二人が教室へ向かっていく。

 ゲームを続けると宣言したのだ。はやく私も教室を回らなければいけない。

 だけど、どうしても聞きたいことがあり、足を止める。

 そのまま二人の背中を見送れば、室内にはルルさんと私だけが残された。


「どうした、真宵。」


 ルルさんは相変わらず書類の処理で忙しそうだ。書類を捌く手は止まらない。

 それでも、耳は私に向けてくれている。


「……生徒の様子に違和感があります。」


 馨さんには「気にしなくていい」と言われた。

 しかし、ゲームを続けると宣言した手前、どうしても放置はできなかった。

 ルルさんなら、何か教えてくれるはず。

 昨日感じた違和感を正直に話すと、ルルさんは手を止めて、こちらを見た。


「真宵は、生徒が怖いか。」

「……正直、怖いです。」


 今も、生徒との会話を思い出せば、背筋がぞくりと冷えてくる。

 人間の形をしているのに、声も表情も、どこか空っぽ。

 心が置き去りのまま、動きだけが生きている。

 そんな不気味さが、頭にこべりついて離れない。


「だろうな。今のあいつらは人間ではなく、ゲームのキャラクターとして設定された機械人形だ。お前とは作りが違う。当然の違和感だ。」

「ゲームのキャラクター?」

「そうだ。だが、あいつらもかつては人間だった。そして、俺様を、そしてお前という存在を心から愛した。」

「私、ですか……?」


 ルルさん曰く、生徒は元々私と同じ人間。

 そして、この世界で初めて出会ったはずの私を愛している。

 ……生徒に何があったのだろうか。

 なぜ、人間が機械人形になったのか。初対面の私を気にかけてくれるのか。

 謎は深まるばかりだ。


「真宵にも感情を整理する時間が必要だろう。今、生徒の全てを理解する必要は無い。……しかし、お前と会話をしているときのあいつらは、他のやつらでは引き出せない良い表情をしている。」


 ルルさんと話しながら、少しづつ昨日の会話内容を思い返す。

 どうしても変わらない生徒の声と表情。

 だけど、文化祭の準備をする彼らは楽しそうだった。

 生徒会の話題を振れば、どんな話題よりも群を抜いて饒舌に語った。

 彼らは、本当に生徒会が好きなのだ。


「……真宵。これからも、どうか、彼らと会ってほしい。」


 想いを伝えてくれたルルさんが、その赤い瞳に陰を落とした。

 私、なんてバカなんだろう。

 違う存在だからって、全部を怖がることなんてなかったのに。

 だから、ルルさん、そんな寂しそうな顔をしないで。


「はい。もちろんです。ご心配をおかけしました。」

「そうか。……ありがとう、真宵。」


 私の決意を、ルルさんが笑顔で受け止めてくれる。

 私だけに向けられた、愛しいという感情。


「………………お前のそういうところが、俺は――。」


 その理由はわからない。

 だけど、――ずっと待ち望んでいたものが目の前にある。

 内から湧き上がる感情が抑えられない。


「――私は、ルルさんとたくさんお話がしたいんです。」

「真宵……?」

「昨日、生徒会室で私に与えてくれたお仕事、嬉しかったです。ルルさんは私のわがままに気遣ってくれたのかもしれないけれど、私にとってそれはずっと叶えたかった夢だから。」

「だから………………」


 気が付くと、言葉に出していた。どうやら私は舞い上がってしまったらしい。

 ルルさんは目を丸くし、何かを発そうとした口は固まっていた。

 その表情を見て、ようやく気づく。 

 私、なんて恥ずかしいことを言ったのだろう。

 今、ルルさんを見てしまったら爆発する。


「真宵、お前――、」

「えっと……、ははは。」


 頑張れ、私。

 恥ずかしさから逃げるな。

 しっかり、目を合わせろ。なんとか、口を動かせ。

 ここまで話したのだから、最後まで気持ちを伝えなければ。

 どこからか湧いた使命感だけで、何とかルルさんを見つめる。


「だから……これからも……私と、付き合ってくださぃ…………。」


 何とか言い切ろうとしたが、最後は声もほとんど出せなかった。

 全身が焦げてしまったのかと錯覚するくらい燃えている。

 いっそのことこのまま焦げ尽くされて、灰になりたい。


 「教室に行ってきます!」


 どうして、想いが溢れてしまったのだろう。

 ただ、今は、あまりの恥ずかしさから逃げ出したい。

 勢いのまま壁紙へ「3年生」と殴り書き、生徒会室から駆け抜けた。


 ――その背中を見送りながら、彼は静かに呟く。

「……愛らしいやつだ、本当に。」

 書類の上に視線を落としながらも、その口元には、抑えきれない微笑が浮かんでいた。

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