第4話「幸せを見送る背中」
霊園を出た2人は、町にやって来て適当に時間を潰していた。
今日はケインの許嫁である、「アミ・ニコルソン」と3人でディナーをする約束になっている。
ケインとアミは小学生の頃に出会い、高校2年生の時に付き合い始めて現在に至る。
付き合いが長いため、ジークとアミも何度も顔を合わせている。
そろそろ約束の時間が近くなり、2人は待ち合わせ場所へと向かう。
「それにしてもついに、ケインとアミちゃんも結婚かぁ~。ほんと月日が流れるのは早いよな。よかったな、ケイン」
ジークがそう言うと、ケインは照れ臭そうに鼻を掻いた。
「ま、ま~な」
「なぁに照れてんだよ~、このこのっ!」
ジークはケインの頬を摘まんで引っ張っていたずらする。
「ちょっ、もう! 兄ちゃんやめろって、恥ずかしいっつの……」
そんな会話をしながら歩いていると、待ち合わせ場所が見えてきた。
「あ、いたいた。おーい! アミ!」
ケインが手を振って呼びかけると、
「あっ!ケイン、ジークさん!」
と彼女もまた手を振り返した。
「ごめんな、待った?ちょっと時間ギリギリになっちゃったな」
「ううん、私も今来たところだから」
愛らしい笑顔でアミは答えた。
2人がそんなやりとりをしていると、ジークがゆっくりとアミに近づいて行く。
「久しぶりだな、アミちゃん。元気にしてたかい?」
挨拶と共に声をかけるジーク。
そんなジークに彼女もまた笑顔で答える。
「はい! おかげさまで毎日楽しく過ごしています! それに……」
そして少しだけ照れ臭そうに笑うと、彼女はケインの手を取った。
「こ、婚約もできたし……えへへっ♪」
はにかみながら、ケインの腕に抱きつくアミ。
「ア、アミ!? そ、そうだな……へへっ!」
ケインも頬を赤くしながら、彼女に微笑む。
「はははっ! 相変わらず仲睦まじいな。お熱いねぇ~」
そんな2人の様子に、ジークはからかうように笑ったのだった。
3人は予約していたレストランにやって来る。
「予約していた、ハワードです」
ジークがウェイターに伝えると、3人を席へと案内する。
「いや~、予約取ってくれて助かったよ兄ちゃん」
ケインがお冷を口に運びながらそう言った。
「ん? ああ、まぁ予約くらいスマートにできてこその大人ってな。それに今日はお前とアミちゃんの祝いの席だ、これくらいはさせてくれ」
ジークもお冷を口に運ぶと、ケインに言った。
「ってことで、今日は全部兄ちゃんの奢りなんだ! アミ、たくさん食べような!」
ケインは嬉しそうに、向かい側に座るアミに言った。
「え? で、でも本当にいいんですか、ジークさん?」
アミは申し訳なさそうにジークを見つめる。彼女もジークがバイトで食いつないでいることを知っているため、少し気が引けるのだろう。
「え? も、もちろんさ……! いいよいいよ、遠慮しないで食べな」
ジークは今月厳しいことを悟られないよう、優しく微笑むとそう言った。
「あ、ありがとうございます!じゃあお言葉に甘えさせてもらいますね♪ ジークさん!」
ジークの言葉の後にケインもうなずくと、彼女は嬉しそうに礼を言うのだった。
(なんかこうしてると、本当に妹ができたみたいな感じだよな)
そんなやり取りをしてから10分程で、料理が運ばれてきた。
「わぁ~! 美味しそう! いただきま~す♪」
3人は手を合わせてそう言うと、ナイフとフォークを手に取った。
「ん~!美味しい! ジークさん、ありがとうございます!」
アミが大喜びで料理を口に運ぶと、ジークは嬉しそうに笑う。
「喜んでくれてよかったよ。2人とも今日はゆっくり食べて飲んでくれ」
こうして楽しい食事をしながら、今後のことについて話をする。
2人が籍を入れるのは来月で、結婚式は6月の晴れた日曜日。
ケインは来週から世界政府で働くことになるが、アミは忙しくなるケインの代わりに結婚式に向けた準備を進めることになっている。
結婚したらアミには家庭に入ってもらって、自分を支えて欲しいというケインの希望から、彼女はいわゆる専業主婦となる。
優秀な彼女ならどこに就職してもバリバリ仕事をこなせただろうが、2人で話し合った結果、アミは専業主婦の道を選んだ。
「前から言ってるけど、結婚したら俺は家を出てくぞ? 新婚の2人を邪魔したくねぇし……」
ジークは肉を切り分けながら、2人に言った。
「だから、そこは気を遣う必要は無いって」
ケインがジークの言葉に、困ったような顔をする。
アミとの結婚が決まってから、兄はことあるごとにこの話を彼にするようになっていた。
世界政府の本庁があるセントラルフィールドという中央圏は、単身者以外はどこも入居するには高い。
交通費にしても、本庁のある都市シャイニングシティにはこの街の駅から転送出勤で通うのが一番いい、とケインは説明した。
「いや、だからな。お前とアミちゃんはあの家に住んで、俺がどこか別の場所に暮らすって話だ」
……が、ジークは言ってることが伝わっていないのか、と頬を掻く。
「もうっ! いいんですよジークさん! 私たちと一緒に暮らしましょう! 出て行くだなんて寂しいこと言わないでください!」
アミはナイフとフォークをテーブルに置いて、ジークを真っすぐ見つめる。
「俺としても、兄ちゃんが1人暮らしとか心配だからな。それに。アミが一緒に暮らすってなったら、少しはシャキッとした生活ができるようになるだろ? な?」
「うぐっ……。たしかに、自堕落な生活は少しまともになるかも……だな」
ジークは痛いところを突かれ、思わず口ごもりながらも答えた。
「だろ? だから一緒に住もうぜ! な!」
ケインが笑顔でそう言うと、アミもうんうんうなずく。
2人の優しい気遣いに、ジークは観念したように言った。
「そうだな。そう言ってくれるなら、よろしく頼むよ。……いや、よろしくお願いします」
ジークの言葉にケインとアミは目を合わせると、
「おう! これからもよろしくな、兄ちゃん!」
「こちらこそ、よろしくお願いしますねっ♪」
嬉しそうに答えたのだった。
そんな2人の優しい笑顔に釣られて、ジークの顔も思わずほころんだ。
そして食事を終えた3人はレストランを出る。
「あ~美味しかったぁ~! ジークさんごちそうさまでした♪」
「いやいや、こちらこそいつも弟をありがとう。アミちゃんのおかげでケインも毎日楽しそうだよ」
ジークの言葉に、照れるアミ。
「たはははっ! もう、やめてよ兄ちゃん」
そんな2人の会話をケインは笑いながら聞いていた。
3人が店を出てしばらくすると、ジークが時計を見ながらつぶやいた。
「さて……。俺はそろそろ帰るとするわ。まだまだ夜も長いし、この後は2人きりでゆっくりと過ごしてくれ」
その言葉を受け、2人は腕を組む。
「じゃあ兄ちゃん、今日はありがとな……ほんとに。明日の昼までは帰るから」
「ああ。じゃあまた明日な」
そして2人は歩き出す。
「あ! ケイン、アミちゃん!」
2人が数歩歩いたところで、ジークが呼び止める。
「ん?どうした兄ちゃん?」
ケインは振り返りながらジークに尋ねる。
「いや、その……なんだ? まだ早いかもだけど2人とも本当におめでとう。幸せになってくれよな」
そう告げると、2人は顔を見合わせる。
満面の笑顔で答えるケイン。
「ああ、ありがとう!」
「はい! ケインと幸せになります! ありがとうございます♪」
アミも同じく満面の笑みだ。
2人の心底幸せそうな笑顔を見て、ジークもまた微笑むと2人と別れるのだった。
そして仲睦まじい2人を見送ったジークは、1人夜道を歩き出す。
(ケインが結婚……か)
ケインとアミの幸せそうな笑顔を思い出しながら、星空を見上げるのだった。
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