第24話 不安要素の解消には
宿舎へ戻る道すがら、女傭兵が肩をすくめながら口を開いた。
「魔女検査だなんて、なんとも不穏な響きだね」
「もっと詳しく書いてないと国民の不安を煽るだけだよね~。国の上層部ってホント無能」
「テオドール……言葉を選べ。誰が聞いてるかわからないぞ」
「ほんっと、怖い魔法使いだね、あんた……」
話題にしたのは女傭兵だが、テオドールのあまりの物言いに引いている。
しかし考えには同意したのか、腕を組んでさらに言葉を続けた。
「今後の動きに注視したいところだね。もし間違いで『お前は魔女だ』なんて言われちゃたまったもんじゃない」
「それね! 検査ってどれほど正確なんだろう。あ~~~もう! 検査内容とか研究とか僕が取り仕切りたーい!」
「有能な人間の発言だねぇ」
検査される不安を述べる女傭兵に対し、テオドールの憤りは少しズレている。
自分ならもっとうまくやれるのに、という発想自体が一般人とは違った。
「調べたいのは山々だが、この町にいる以上は得られる情報は限られるだろうな」
他の町にいる知り合いに手紙を送って、という手もあるにはあるが、それならどこよりも早く情報が届く役所の知らせを待つのと大差はない。
結局待つしかないのだと諦めていたモッシュに、女傭兵がふふんと得意げに鼻を鳴らした。
「あたしのチームにはさ、情報収集のプロがいるんだ。他より早く新情報を手に入れられる。何かわかったら情報共有してもいいよ」
「それは助かるが、いいのか。対価は……」
「いらないよ。ポレットちゃんの能力を疑っちまったのと、いい魔法を見せてもらった礼さ」
女傭兵はそう言うと、ポレットに向かってウインクをしてみせた。
「そういや互いに名乗ってなかったね。あたしはネネだ」
「モッシュだ。こっちはテオドール。宿舎で待ってるのが……」
「カオンとリグだろ? あはは、あんたたちは有名人だから知ってるよ」
女傭兵ネネはカラカラと笑うと、寄るところがあるからと先にどこかへ行ってしまった。
有名人と言い残され、モッシュは眉間にしわを寄せた。
テオドールやカオンが少し有名なのはわかるが、一緒のチームというだけで自分やリグまで有名とは言い難いのではないか。
特に今はポレットもいる。出来るだけ目立たずにいたいというのにあんなことを言われては警戒もするというもの。
モッシュが大きなため息を吐いていると、テオドールがふむと顎に手を当てて口を開いた。
「情報収集のプロ、ね。僕たちのことも全部知ってるってことかぁ」
「あえてわかるように言ったんだろう。まぁ……信用していいはずだ」
「同感~」
自分たちはモッシュたちの敵にはならない、そういう意味であえて「お前たちのことは知っている」と明かしたことには気付いている。
なぜなら、本来そういった自分たちの手の内を晒すようなことをわざわざ伝えるメリットなどないのだから。
脅しとしてちらつかせるという手もあるにはあるが、話の流れと友好的な気配からそれはないとモッシュは判断した。
「じゃ、まずは魔女検査についてうちのメンバーと情報共有しますか。んー、リグ坊やが怒りださないといいけどー」
「そういう言い方をしなきゃ大丈夫だろう」
「えー? そういう言い方って?」
リグを怒らせるのはいつもテオドールだ。わからないフリをしているが、恐らく今までもこれからもずっと故意に違いない。
テオドールの悪癖に再び大きなため息を吐きつつ、モッシュは宿舎に向かう足を速めた。
◇
宿舎に戻って昼食を摂った後、ポレットは疲れたのかぐっすりと眠ってしまった。
ポレットがお昼寝をしている部屋に集まった一同は、少々狭いがテオドールの防音魔法をかけたこの部屋で話し合いを始めた。
「魔女検査……?」
「つまり、魔女の判別方法がわからないことにはなんの対策も打てない、ということですか」
「対策を打たせないため、だな」
「く~、全国民に恨まれてでも厄災の魔女を捕まえたいってわけねー」
話を聞かされたリグは、頭を思い切り殴られたような気持ちになった。
冷静に話を聞き、理解の早いカオンの言葉もあまり頭の中に入ってこない。
(もしポレットが検査を受けたら……魔女だ、って言われるのか?)
不安だけがリグの胸の内で渦巻き、対策だなんだと話すみんなの話もうまく理解しきれなかった。
(こんな時、俺はダメだな。結局、みんなに頼りきりだ)
人生経験が違うのだから当然とはいえ、リグは改めて自分がまだまだ子どもなのだと思い知らされる。
それでも、このままでいいとは思わない。
リグは回らない頭で精一杯の意見を口にした。
「対策はさ、検査を受けさせない、とか?」
「それが出来れば一番なのでしょうが……私たちは一応、国の雇われ傭兵です。保護者登録もしましたし、検査は免れないでしょう」
逃げようと思えば逃げられるし、傭兵をやめても生きていける実力がこのチームにはある。
とはいえ簡単な道ではない上、今よりもっと危険が付きまとう。
いつまでも逃げ続けられるとも思えないため、結局大人しく検査を受けるしかない。
「覚悟だけはしておかないとだな」
モッシュの言葉にリグはハッと顔を上げた。
「まだ、ポレットが魔女だって決まったわけじゃないし」
「リグ」
モッシュに呼ばれ、一度ポレットの寝顔を見たリグは苦しそうな表情を浮かべてしまう。
「最近、夜中にさ。ポレット……よく魘されてるんだ」
毎日ではないが頻度は高い。
どんな夢を見ているのか、苦しそうなポレットを放っておけず、リグは一緒のベッドに横になって落ち着くまでずっと抱きしめていた。
そのまま一緒に眠ってしまい、そのまま朝を迎えることが実はよくあるのだ。
「テオドール、言ったよな? ポレットは森にいた以前の記憶がないって」
「言ったね。間違いなく何もなかったよ」
「記憶がないから、きっとポレットは俺たちに慣れるのも、笑顔を見せるのも早かったんだって思う。辛い記憶がないから」
朝目覚めたポレットはいつも通りで、夢のことを何も覚えていないことがほとんどだった。
時々、怖い夢を見た気がするということだけはうっすら覚えているようなのだが、すぐ忘れてしまうのか次の瞬間には笑ってくれている。
だからこそリグもあまり気にしないようにしていたのだが。
「魘されている原因がさ、ただの悪夢なら……まぁ、あんまりよくはないけど、まだいい。けどもし失われた記憶の中の、辛い思い出だったらって……」
ポレットが魔女だったにせよ、そうでなかったにせよ、記憶のない間のポレットの生活が劣悪だったことは間違いない。
体の状態から予測するに、死に面していたことも。
「勝手に想像して、勝手に悲しくなってるだけだってわかってる。でもさ、ポレットにはこの先ずーっと笑っててほしいんだ。それなのに、もし検査で引っかかったら? 幸せになる道はなくなるんじゃないかって思うじゃん!」
この際、リグにとってポレットが魔女かどうかはどうでもよかった。
ただこの先のポレットの人生が幸せであることを願ってやまないだけなのだ。
「そうだな。リグの言う通りだ」
「私たちだって、同じ気持ちですよ」
「もー、仲良しこよしごっこが好きだね、君たちは」
モッシュやカオンと違って小馬鹿にしたような態度ではあるが、テオドールも概ね同意なのだろう。頭の後ろで手を組みつつ、悪い笑みを浮かべて言う。
「これは本格的に情報を集めなきゃ。ネネのチームに頼ってばかりじゃなくてね。迅速に、それでいて怪しまれないようにさ」
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