第17話 同じ宿舎の傭兵たち


 傭兵の宿舎に他のチームが戻ってきた。

 この町には三チームが常に滞在することが決まっているため、宿舎は譲り合いと助け合いの精神が必要になってくる。


 傭兵であればそれは常識であり、基本的にルールは守るものだが、中には素行の悪い者もいる。


 ……いや、素行の悪い者が多いといったほうがいいかもしれない。


「なんで子どもがいんだよぉ!」

「うわー。こりゃ、ハズレだねぇ」


 ポレットの姿を確認するなり響いた怒声と、呑気なテオドールの声が宿舎内に響く。

 ハズレというくらいなので当然アタリのチームも存在するにはするのだ。

 しかし、くじ引きというのはハズレが多く用意されているもの。

 だからこそ、世間の傭兵への心証は悪いのだ。


 ある程度、他のチームの反応を予想していただけに、テオドールだけでなくモッシュやカオンも諦めたように肩をすくめていた。


 ちなみにリグはというと、ポレットの両耳を塞ぎながら怒声を上げた傭兵を鋭い眼差しで睨み続けている。

 もしかしたら良いヤツ、という可能性もなきにしもあらずだが、幼い女の子を見た第一声があれではどうしようもない。


 モッシュは立ち上がると、騒ぐ傭兵たちの前に出た。

 身体の大きなモッシュはただ目の前に立つだけで迫力がある。傭兵たちは僅かに怯んだ。


「文句があるなら俺に言え」

「ちっ、傭兵のくせにガキのお守りかよ。うるさくしやがったらすぐに殺してやるからな」

「ははっ、任せろ。……その前に俺がお前を殺してやるよ」

「てめぇ……」


 相手チームのリーダーと思しき男とモッシュが至近距離でにらみ合っている。

 モッシュの背後では腕を組んだまま微動だにしないカオンも圧力をかけており、まさに一触即発の雰囲気だ。


「ほらほら、リグ兄ちゃん。そーんな怖い顔しないの。ここは血の気の多いモッシュとカオンに任せて、僕たちは外に行こう。今日からポレットちゃんの買い物や訓練で忙しいんだから」

「っ、うん。わかった」


 気持ち的にはモッシュたちに混ざって下衆の相手をしてやりたいところだったが、リグの使命はポレットを守ること。ここで喧嘩を買ってはいけないのだ。しかし。


「ははっ、子どもと魔法使いが逃げてくぜ!」

「仕方ねぇだろ、弱ぇんだからよ! ぎゃははは!」


 相手チームの仲間二人が挑発してきた。

 リグはわかりやすく苛立ち、反論を口にしようと前に出かけたが、テオドールに左手で止められてしまう。


 リグが複雑な顔で見上げた時、テオドールは人差し指を軽く振っていた。

 その瞬間、挑発してきた男たちの口がまるで縫い付けられたように閉じてしまう。


 いち早く気付いたリーダーの男が、モッシュから目を逸らし叫ぶ。


「おい、そこの魔法使い! 何しやがった!?」

「何って、うるさいから黙ってもらっただけだよ。あっ、呼吸は鼻でも出来るよ? 頭が悪そうだから知らないかもしれないけどさぁ」

「こんの野郎がぁ!!」

「あはは! 怒ったぁ!」


 人の神経を逆なでする物言いにおいて、テオドールに勝てる者はいないかもしれない。

 リグは仲間ながらテオドールをやや引いた目で見た。


「っていうか、杖も使わずに指先一つで発動した魔法だよ? ある程度の強さをもった者なら簡単に解けるはずだけど。あはっ、よく傭兵として仕事出来るねぇ?」

「なっ、おいお前ら! さっさと魔法を解け!」


 指摘されたことで黙らされた男たちは四苦八苦しながら魔法を解こうともがいている。

 しかし、なかなかうまくいかないようだ。リーダーの男はさらに鋭くテオドールを睨みつけた。


「仲間の実力不足を僕のせいにしないでよ、だっさ。それか君、彼らのママなの? ボクの子どもたちをいじめないでぇ! って? あははは! 気持ち悪ぅ!」

「お前いい加減に……」

「あとね、魔法使いにはあまり喧嘩を売らないほうがいいよ。特に僕みたいな天才相手じゃ分が悪い」


 さらに激昂しそうになったリーダーの男に向かってそう言い捨てると、テオドールはわざとらしくマントをめくってその裏に刺繍されている紋章を見せた。


「なっ!? そ、それは、王国魔法協会の紋章!? それも、金糸じゃねぇか」


 王国魔法協会が認める魔法使いは世界でも数えるほどしか存在しない。その中でも金糸で刺繍された紋章は五本の指に入るほどの実力を持った魔法使いということだ。


 テオドールは子どものようにベッと舌を出すと、今度こそリグとポレットの背を押しながら宿舎を出ていく。

 後には呆気にとられた相手チームの面々と、額に手を当てて首を振るモッシュとカオンが残された。


「……なんで、傭兵なんかしてんだ……」

「それに関しては仲間ながら同意だがな。もうちょい態度を改めろよ。お前も、お前の仲間たちも」

「あまりにも下品ですからね。舐められたくないのはわかりますが、悪手ですよ」

「ちっ……」


 凄腕の魔法使いを仲間にしているということは、リーダーであるモッシュも剣士のカオンも相当な実力の持ち主ということだ。

 幼い子どもの一人や二人いたところで、守り切れる実力があるとも言えた。


「まさかお前たちも……いや、なんでもねぇ」

「どうせしばらくの間は同じ宿舎で顔を合わせることになるのです。お互い、面倒は避けませんか?」

「わかったよ……」


 苦虫を噛み潰したような顔で了承を口にしたリーダーは、ちらっと床に這いつくばる仲間たちを見る。

 相変わらずうまく口が開けず苦戦しているようだ。


 モッシュは大きくため息を吐くと、おもむろに床を踏み鳴らす。


「ぎゃあっ!!」

「ひえっ!!」


 モッシュの威圧により、男二人の口があっさり開いた。


「仲間が迷惑かけたな。ま、テオドールにはあんま関わんないほうがいい」

「……やっぱお前もバケモンじゃねぇか」


 がっくりと肩の力を落とす男たちの姿を見て、モッシュとカオンはようやく肩の力を抜いた。

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