第10話 町までの護衛道中
村の役人と兵士が先導をする馬車の、後ろからついていく形でリグたちは歩いていた。
ポレットにも馬車に乗るよう勧めたのだが、頑なにリグから離れようとしないため一緒に歩いている。
遅れそうになったら抱き上げるつもりだが、歩きたいという意思を見せたポレットの小さなワガママをリグは聞いてやりたかった。
おかげで一生懸命小走りになりながらついていこうとするポレットから目が離せない。
「それにしても、魔女の影響があんな形で出るなんてな。遠く離れた地だから問題ないだろうと思っていたが」
「実際、周辺の森に大きな異変は見られませんでしたしね。地震のあった当日と次の日くらいまでは魔物も少し騒がしかったようですが、町にも村にも被害はなかったと聞きました」
モッシュとカオンの会話を聞いて、リグもまた今回森に出向いた本来の目的を思い出す。
地震があった日はリグも驚いたが、ほとんど影響がなかったせいで大したことはないと思っていた。
しかしあの地震がこの場所から遠く離れた氷山で起きたものだと聞き、冷や水を浴びせられたかのような衝撃を受けた。
こんなに遠く離れていた場所でも感じたほどの地震ならば、氷山近くではとんでもないことになっただろうと容易に想像が出来たからだ。
大災害ともいえる揺れだったため、良くない噂が出回るだろうことも。
なぜなら氷山は、厄災の魔女が封印された地。
魔女が封印を解いた、魔女が死んだ、魔女の力が暴発した、などの魔女に関わる噂はすでにいくつも出回っている。
そしてついに二日前、魔女が関係していることは事実だと国から発表された。
辺境にあるこの地に情報が来るのは遅いため、地震が起きてすぐに発表されたのだろう。
つまり、すぐ発表出来るほど確実な情報だということでもあった。
「子どもってさ、感受性が豊かだから。怖いことがあるともっと恐ろしい想像をしちゃうんだよぉ。ポレットちゃんはどうかなー?」
「わざわざ怖いことを思い出させるようなこと言うなよ! ポレット、気にしなくていいからな!」
こういう時でさえふざけるテオドールに苛立ったリグだが、当の本人はついてくるので精一杯な様子であまり聞いていないようだ。そのことにリグもホッと胸を撫でおろす。
不安なのはリグも同じため、苛立ってしまったのは怖がってしまう自分に対してのものかもしれなかった。
あれから数日経過している。
そろそろ国からも新たな発表がされているかもしれないが、この辺りにまで正確な情報が来るのはもっと後になるだろう。
少しでも間違いのない情報を得るためには大きな町に向かう必要があるが、リグたちは傭兵としての仕事がある。
決められた期間滞在しなければ、次の地へ行くことが出来ないのだ。
結局のところ、今向かっている町に滞在しながら仕事をしつつ、情報がくるのを待つしかなかった。
「ん、道の先でウルフの群れはっけーん。カオン、ちゃちゃっとやってきてよ」
「距離と数は?」
「二百メートルくらい先、隠れてるのを入れて八頭かな」
「了解です。では、行ってきますね」
テオドールが軽い調子で言うと、カオンがなんの疑いもなく駆け出した。
役人や兵士は突然の動きに目を丸くしている。
「カオンだけで平気そうか?」
「余裕でしょ。戦闘狂だもん、カオンは」
「お、お前たち、なんでわかるんだ?」
モッシュとテオドールの会話に、ようやく我に返ったらしい兵士の一人が質問をしてきた。
テオドールはニヤッと人の悪い笑みを浮かべると、いつも通りの無神経さを発揮する。
「えー? そりゃあ僕が優秀な魔法使いだからだよ。ぺらぺらお喋りばっかりして、ろくに仕事もしないクズ傭兵だとでも思ってたぁ?」
「テオドール、やめろ。悪い、こんなヤツでも実力だけは確かなのでご安心を」
「ちぇっ。モッシュはお堅いなぁ」
周囲に気を配るモッシュは本当に頼りになるリーダーだ。テオドールは少しくらい見習えばいいとリグはいつも思う。
そんな中、役人の一人が困惑した表情で口を開いた。
「あ、あの。普通ウルフの群れを一人では対処出来ないのですが……ほ、本当に大丈夫なんですか?」
「あはは! お前らみたいな傭兵は信用出来ないって? カオンってああ見えてめちゃくちゃ強いから平気! 戦う姿を見たら怖くてそんなこと言えなくなるよぉ」
「そんなこと言ってないだろ。テオドール、お前少し黙れ……」
確かにリグも、カオンが戦う姿を初めて見た時は恐怖を覚えたものだ。
とはいえ、事情も知らない相手に喧嘩を売るような口調で語るようなものではない。
リグは呆れ半分、苦労人なモッシュに対する同情半分で聞きながら、疲れて足が止まってしまったポレットを抱き上げた。
「頑張って歩いたな。少し休憩だ」
リグの言葉を聞いて素直に頷いたポレットは息を切らしており、頬が紅潮していていつも以上に愛らしい。
本当にすぐ体力切れになってしまうポレットが心配になる気持ちもありつつ、それでも頑張る彼女に心が癒された。
しばらく進むと、地面に倒れ伏すウルフの群れから黙々と魔石を取り出すカオンの姿が確認出来た。
やはり助けなど不要だったようで、すでに全てを倒し終えて後処理まで行っている。
こちらの接近に気付いたらしいカオンが手招いて誰かを呼んでいる。リグたちにはそれだけですぐにわかった。
「今度は僕の仕事だねー。いつも思うけどさぁ、僕の仕事多くない?」
「魔法使いは便利だからな」
「言うねぇ、モッシュ。今後も僕のフォロー頼むよ!」
「自覚あんのかよ……はぁ、さっさと仕事してこい」
「はいはーい」
テオドールはウインクを一つ残してふわりと宙に浮かぶと、飛行魔法であっという間にカオンの下へと飛んでいき、上空で大規模な地魔法で地面に穴を掘った。
その穴にカオンが次から次へとウルフを放り投げていき、全てを投げ入れたところで再び地魔法で穴を塞ぐ。
先ほどまでウルフの死骸があったなどと誰も思えないほど綺麗になっており、兵士も役人も驚きで口を開きっぱなしだ。
(テオドールの魔法に驚いてるのか、カオンが軽々ウルフを放り投げていくのに驚いているのか……いや、どっちもかな)
リグが自分もこうして驚いた日があったなぁ、と懐かしく思いながら苦笑していると、パチパチと小さな音が聞こえて視線を落とす。
見ると、リグに抱っこされているポレットが感動したように拍手をしている。
素直な反応があまりにも微笑ましく、リグは思わずクスクス笑った。
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